研究課題/領域番号 |
04044129
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
姫野 國祐 徳島大学, 医学部, 教授 (50112339)
|
研究分担者 |
前田 健一 徳島大学, 医学部, 助手 (30238860)
長澤 秀行 徳島大学, 医学部, 助教授 (60172524)
AIKAWA Masam Case Western Reserve University, Institut, Professor
|
研究期間 (年度) |
1992 – 1993
|
キーワード | 熱ショック蛋白質 / 原虫 / 感染防御 / 弱毒株と強毒株 / エスケープ / γδT細胞 / HSP65 / 宿主マクロファージ |
研究概要 |
原虫を含めた多くの感染症においてストレス蛋白質(熱ショック蛋白質、HSP)は、病原体自身、宿主細胞あるいはそれらの双方に発現することが知られている。しかしHSPが病原寄生体のエスケープの手段として機能するものであるか、宿主側の防御機構に有利に働くものであるかについては解明されていない。また、寄生体の感染形態や毒力、宿主側の防御能の差異が、寄生体あるいは宿主細胞へのHSPの発現にどのような法則性をもたらすかについても不明のままである。我々は本研究により、主としてMФを含めた網内系細胞へ寄生するトキソプラズマ原虫においては、HSPは原虫自体には発現しないが、宿主の抗原特異的なT細胞の介助により宿主MФへ発現し、その程度が宿主防御能に密接な関連性を持つことを、トキソプラズマの強毒株(RH株)と弱毒株(Beverley株)を用いた実験系により明らかにした。また、T細胞の中でもγδ型T細胞がHSP(HSP65)の宿主MФへの発現に重要な係わりを持つことを確認した。なお、強毒株にはHSP65の発現を抑制する機能を持つことも見い出した。 これまでの報告では、感染の系においても自己免疫の系においてもγδ型T細胞は、微生物や体細胞に発現したHSP65をリガンドとして認識して集積し、活性化するとしている。しかしながら、前述のごとく我々は、γδT細胞はトキソプラズマに対して感染防御が成立した宿主のMФへのHSP65の発現自体にも係わることを初めて明らかにした。本研究ではさらに、1.γδ型を主体としたT細胞がどのような機序で宿主MФにHSP65を発現させるか、2.その発現が宿主防御にどのような役割をはたすか、3.強毒株によるHSP65発現抑制がどのような機序によるのか、4.HSP65発現抑制が強毒株のエスケープにどのように貢献しているか、等について解明した。なおリーシュマニアやクルーズトリパノソーマも、トキソプラズマと同様に網内系に寄生性の原虫であるが、エスケープ機構が各々異なることが知られている。そこでこれらの原虫を用いて同様の実験を行い、トキソプラズマ感染における法則性が、これらの原虫感染においても適用されうるか否かについても検討を行った。その結果、トキソプラズマ感染の系で得られたHSP65の宿主マクロファージへの発現と宿主防御能の関係が、他の細胞内寄生性原虫にも当てはまることが明らかとなった。 病原性原虫等が、高度に分化した免疫系の監視機構をいかに制御し、またエスケープするかについては不明な点が多い。原虫特有のエスケープ機構を解析するにあたって、エスケープ機構に欠陥を持つと思われる弱毒株をベースにおいて、強毒株感染の特性を生化学的、免疫学的、分子生物学的な手法を用いてアプローチすることが効果的であると思われるが、このような方向性の研究は皆無に等しかった。また、γδ型T細胞はHSP65をリガンドとして集積、活性化されるという報告が一般的であるが、我々のごとく宿主MФへのHSP65の発現自体にγδ型が深い係わりを持つという報告は皆無である。本研究をさらに推進することにより、トキソプラズマの弱毒株感染において、T細胞(ことにγδ型)からのインターフェロンγ等のサイトカインを介したMФへのHSPの発現機構の解明が期待される。さらに、強毒株感染におけるHSP65の発現抑制が強毒株からのある種の代謝産物によるものか、その抑制性因子の標的細胞がT細胞であるのかMФであるのか等についても解明が期待される。 近年、HSPの細胞生物学的に多彩な機能が漸次報告され、HSPが原核細胞から高等動物の真核細胞まで多種の細胞において細胞機能維持に必須の分子であることが明らかにされている。病原性原虫の虫体におけるHSPの発現に関しても多数の報告がある。例えば、マラリア原虫、クルーズトリパノソーマではHSP70、HSP90が、リーシュマニア原虫ではHSP70が発現されている。またそれらの原虫感染に伴って血清中に抗HSP抗体が検出されており、宿主免疫系が多くの場合、原虫由来のHSPを認識することは確認されているが、免疫系が宿主防御に実際に係わっているか否かについては、ほとんど未知のままであった。また、HSPが原虫の病原性(強毒株あるいは弱毒株)に関連した分子であるかについての研究も我々の報告が最初である。 今後の重要課題として、強毒株に見られたエスケープ機構とそれに対して宿主防御系がどのように対応していくかをHSPを絡めて解明していく。
|