研究課題
国際学術研究
本研究の目的は、遺伝子機能の解析、ヒト疾患モデルマウスの作製、未知の発生関連遺伝子の単離・解析を行うにあたって、ES細胞を用いた標的組換え技術をどのように応用しうるのか、その技術的発展の余地はあるのかについて諸外国の研究者と討論し情報交換するものである。標的遺伝子組換え技術としては、既知遺伝子への組換えである相同遺伝子組換えと未知遺伝子への組換えである遺伝子トラップ法の両方の調査を行った。まず、胚幹細胞を用いた相同遺伝子組換え技術の進歩を討論するために阿部と要が時期を違えて米国ノースカロライナ大学のスミシ-ズ博士を訪問した。特段の進展はみられず、同一の遺伝子であっても用いる場所によって相同組換えの頻度は変わること、その原因は不明であることが確認された。キメラマウスの作製に関しては、ES細胞と桑実胚の凝集によるキメラマウス作製法が注目されているが、これはR1細胞に特有の性質であることがわかった。他の細胞、例えばTT2細胞はむしろ8細胞期胚へのインジェクションが適していることも明かとなり、ケースバイケースに考えなければならないことがわかった。一方、人口酵母染色体を用いれば1メガベースも巨大DNA断片が単離でき、それを導入したトランスジェニックマウスの作製が可能となっている。現在は、ES細胞と酵母を直接融合して導入するスフェロプラストヒュージョン法、リポフェクションによりES細胞に導入する方法、そして受精卵へ直接注入するマイクロインジェクション法が用いられている。いずれの方法が効率的かについて情報の収集と討論を行った。その結果、ES細胞を利用する方法は、常に生殖キメラマウスを作製できるかどうかが問題にな煩雑さが残ること、それに対して受精卵へのマイクロインジェクション法は簡便で次世代への伝達も問題ないことから、この方法論を追及すべきであると考えられた。さらに種々の実験の結果、ピペッテイング操作そのものはそれほどDNAにダメ-ジを与えないこと、DNAの処理のためスペルミジン等のポリアミンを用いて凝集させること、人口酵母染色体を精製するときに混入するアガロースをアガレースで完全に消化する必要のあることが明らかとなった。また、ドイツのグループからの情報で人口酵母染色体をポリアミンで処理し凝集させると、その直径がマイクロインジェクションに用いるピペットの内径よりも小さくなること、したがってこの方法が極めて有効であることが示唆された。ヨーロッパにおける標的遺伝子組換えとマウスゲノム研究の現状を調査するため荒木喜美と荒木正健はドイツマックスプランク研究所のソルター博士の研究室を訪問した。遺伝子トラップ法に関する一番の問題点はどのようなストラテジーでトラップクローンを選択するかということで意見が一致した。研究代表者らが特に興味をもっているのはES細胞を分化抑制因子の非存在化で培養し胚様体を形成させる系をスクリーニングとして用いることができないかどうかである。この点は、まだ未知の部分が多いが、内胚葉系の臓器である肝臓で発現する遺伝子をマーカーとして、胚様体形成と共に発現がどう変化するかを解析したところ、細胞の分化に応じた遺伝子発現が生じることを観察した。したがって、この系が胚葉分化の決定に関与する遺伝子の単離に使用できる可能性が示唆された。また、ファージの組換えシステムであるCre-loxPの系を用いた組織特異的遺伝子破壊技術が話題となっているが、その有用性についても討論した。問題は何%の細胞で組換えを起こしうるかどうかであるが、リコンビネースであるCreを核移行シグナルを利用し核内で発現させたほうがよいとの情報も得られた。ロンドンで第8回マウスゲノムカンファレンスが開かれたが、突然変異マウスを用いたポジッショナルクローニングの研究がヒトと同様に進展しつつあることがわかった。遺伝子トラップ法で単離したAyu1クローンについて、マッピングを依頼していたグループと再会し、その正確な位置がセントロメアから94cMであること、Hnf-4とは分離しないことがわかった。この情報から、以前考えていた巨大結腸症を呈する1sの遺伝子座とは異なることがわかった。
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