研究課題
本研究の目的は血管平滑筋と心筋細胞のイオンチャネルの性質の違いとイオンチャネルに直接あるいは間接的に作用する薬物の組織選択性を検討することである。モルモット心室筋とブタ冠動脈平滑筋の遅延整流型K電流の活性化・不活性の性質の違いと4-aminopyridine感受性の違い、どちらの遅延整流型K電流もc-AMP依存性蛋白燐酸化酵素によるチャネルの燐酸化で活性化を受けることなどが明らかになった。また、トロンボキサンA2の安定誘導体によるCa電流修飾の違い等を明らかにし報文とした(投稿中)。さらにキニジンが冠動脈平滑筋のCa依存性K電流や遅延性K電流を治療用量に近い濃度で抑制することなどを明らかとした。アラキドン酸自体を投与した時の作用については現在検討中である。ケイナイ博士を3か月間招聘しての協同実験により、クラスIからIVまでの抗不整脈薬のうちの幾つか、ジソピラミド、フェニトイン、プロパフェノンが治療用量より若干高い濃度で心筋のCa非依存性一過性K電流や遅延性K電流を抑制することを明らかにし、どのKチャネルに選択性を示すかをウサギ心房・ラット心室筋細胞で定量的に検討した。さらにこの研究で心室・心房筋の遅延整流型K電流の薬物感受性には種差が著しいことがわかった。特に最近盛んに開発されているクラスIIIの抗不整脈薬の多くが心筋遅延整流Kチャネルに対し、小動物ではモルモット>ウサギ>ラットの順で大きな効力の違いを示すことがわかった。ヒトの各種心筋の遅延整流型K電流のモデルとしてどの動物が適当であるかを充分明らかにする必要がある。ケイナイ博士との実験結果などをまとめて、北米生物物理学会と日本薬理学会で発表し、報文として投稿した。平成5年度は心筋と平滑筋のCa依存性イオンチャネルの差異と活性化に要するCa源の違いに関する研究を主に行っており、Calgary大で協同実験を行う予定である。