研究分担者 |
KEAST JR クイーンズランド大学, 医学部, 講師
MORRISON JFB リーズ大学, 医学部, 教授
DE.GROAT WC ピッツバーグ大学, 医学部, 教授
松本 元一 昭和大学, 医学部, 助手 (00219495)
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研究概要 |
膀胱・直腸・生殖器からの知覚は主に副交感神経、すなわち仙髄に投射することが知られている。本研究ではde Groat教授とともにこれまで調べられていなかった女性生殖器の各部分の知覚路について検討し、論文発表を行った。また、ペプチド・アミノ酸が多種この一次知覚線維に含まれ、脊髄後角に投射していることを論文発表および投稿の準備をした。 膀胱をモデルに正常・異常の知覚受容体・知覚伝導路・伝達物質の変化について検討した。膀胱では尿が貯留し、ある程度拡張するとその知覚を中枢が受け取り、いわゆる排尿反射を起こす。この疾病として膀胱炎が高頻度に認められるが、これは頻尿・疼痛を伴うことが多いことから、膀胱からの知覚系が変化し、症状を引き起こすと予想された。具体的には感染病原菌に対して動員される白血球より、いわゆるサイトカインが知覚の変化に関与する可能性についてBirder博士,de Groat教授と共同研究した。また、病原菌により尿が酸性化し、膀胱粘膜の知覚受容器の興奮性を増大させ、頻尿・疼痛が起こる可能性についてMorrison教授と検討した。神経ペプチドが多く一次ニューロンに存在したことから、これら伝達物質のあるものは主として中枢側の脊髄で、あるものは末梢側ないし、遠心路のシナプスのある骨盤神経節で作用している可能性について電気生理学的にKeast講師と検討した。 実験方法は、(1)ウレタン麻酔ラットの脊髄後根を微細な線維とし、単一線維より膀胱拡張に伴った放電記録による検討,(2)膀胱収縮を指標に随腔内薬物微量投与による検討,(3)急性単離したラット仙部後根神経節細胞にCa^<++>指示薬Fura2を取り込ませ、細胞内Ca^<++>量の増大を指標に疼痛関連物質の検討,(4)摘出骨盤神経節標本での細胞内電位記録における神経ペプチドの影響の検討,(5)骨盤各臓器へのホルマリン刺激により脊髄に起こるc-fos発現の組織化学的検討を行った。三ヶ所の共同研究者のうち、de Groat教授とは初年度Birder博士に来日してもらい、Fura2の研究を中心に行った。本年度は松本助手が大学公費による留学を行い、多類の検討を行った。Morrison教授とは単一線維の実験をそれぞれ独自で行い、本年度2回にわたり結果を比較検討した。 結果として、まずサイトカインの1つであるインターロイキン1β(IL1β)は膀胱粘膜部に存在する神経終末ないし神経線維に作用する可能性を発見した。膀胱容量に応じた放電数を後根線維から記録するとIL1β膀胱腔内投与後では閾値,膀胱内圧の低下,同一内圧では放電数の上昇を認めた。また排尿反射の発生する膀胱容量の低下を認めた。さらに、単離した後根神経節細胞の細胞内Ca^<++>量がIL1βで一過性の上昇をきたし、このCa^<++>が細胞内でのCa^<++>の放出であることを明らかにした。 また、膀胱内液の酸・塩基性により知覚神経の感受性の変化について後根線維での活動電位記録により検討した。神経伝導速度の12〜2m/sをAδ線維,2m/s以下をC線維として検討するとAδ線維の50%が反応し、全て膀胱の軽度拡張(5〜40cmH_2O)により放電を開始した。C線維の56%がやはり軽度拡張の閾値をもち、8%がより高圧(41〜60cmH_2O)で放電を開始した。膀胱内を酸性液にかえるとC線維の半数はph4.5で放電開始閾値内圧の低下が認められた。pH3.5液では全例で閾値の低下がおこり、中性液では高閾値であったものが、低閾値となり新たに2本の線維で放電が認められた。pH3.0液では新たに2本の線維で圧力上昇に伴った放電が認められ、最終的に85%の線維で放電が認められた。これに対してAδ線維での放電開始の閾値等について変化が認められなかった。 結論として骨盤臓器の1つ膀胱粘膜にある知覚受容体はサイトカインの1つIL1β自体で刺激されたり、酸性液により感受性の変化を起こし、知覚過敏ないし痛覚を起こしやすくなっていることを明らかにした。
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