研究概要 |
本年度は,日本側研究者が英国において研究・調査を行い,またケンブリッジ大学東洋学部とセント・ジョンズ カレッジにおいて4回にわたり英国側と意見交換した。中文書調査の対象は,ケンブリッジ大学図書館,ロンドン大学SOAS図書館,BLオリエンタル コレクション,オックスフォード大学ボドリアン図書館,ニーダム研究所東アジア科学史図書館など。シノワズリの調査対象として,フィツウイリアム美術館,パーシヴァル・デヴィド コレクション,アシュモリアン美術館,ヴィクトリア・アルバート美術館,アングレイズアビー,アルドレイ=エンド=ハウス,バーグレイ=ハウスなどを訪問した。以上の結果,次のことが明らかになった。(1)英国中国学主要三大学における中文書の蔵書状況は,量的にはほぼ同じであること。但し,大部分を占める基本図書は,比較的近年発行のものであり,所謂稀購書の類は少ないか殆どないが,各大学における中国学講座設置の歴史を反映して,初期の収書部分にそれぞれ特色あるコレクションを有している。しかし,それらは十分利用され尽くしたとは言い難く,発掘の余地はまだあるように思われた。特にヨーロッパと中国の関係史の分野には,未利用のコレクションが多い。(2)近年,英語文化圏で盛んなArea Studyは,英国のOriental Studyに対する批判から起こったという側面があるのではないかと感じられた。古代ヘブライ学から近代日本経済の研究までを包括するOriental Studyは,一つの学問体系を成しているわけではない。社会科学に接近しようとする東洋学が地域史研究に向かうことは当然のように思われる。しかし,英国では必ずしもこの傾向が優勢であるわけではなく,Intellectual Historyを含めて東洋学の将来は流動的なようである。
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