研究課題/領域番号 |
04044153
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
葉山 杉夫 関西医科大学, 医学部, 助教授 (70025360)
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研究分担者 |
中務 真人 大阪医科大学, 医学部, 助手 (00227828)
柳井 徳磨 岐阜大学, 農学部, 助手 (10242744)
柵木 利昭 岐阜大学, 農学部, 助教授 (70014115)
ASSITOU Ndinga Natural Conservation Bureau. Director
ATTWATER Mark Congo Gorilla Project. Director
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研究期間 (年度) |
1992 – 1993
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キーワード | アフリカ大型類人猿 / 臨床病理学 / 神経性拒食症 / インフルエンザ性肺炎 / 急性灰白髄炎 / 気管支肺炎 / 防腐保存処理 / 比較解剖学的標本 |
研究概要 |
1.臨床病理学的研究:1991年の3個体のサンプリング剖検と1992年のヒト由来の感染症9個体、計12個体のアフリカ大型類人猿の臨床病理学的研究を実施してきた。アフリカ大型類人猿の内訳は、ニシローランドゴリラ9個体、ボノボ(ピグミーチンパンジー)とコモンチンパンジーの各個体の計12個体である。サンプリング剖検のニシローランドゴリラ3個体は、親の密猟殺のあとの捕獲後のストレスによる神経性拒食症からの二次的な感染症が主な死因であった。コンゴにおける国際学術研究(共同研究)が軌道に乗り出し、アフリカ類人猿孤児のストレス除去に努めた結果、神経性拒食症由来の感染症が激減し、1992年に皆無の成果をあげた。コンゴ国との国際共同研究の開始前の神経拒食症による死亡はなくなったが、1992年6月と8月は、ヒト由来の感染症、インフルエンザとポリオの流行を受け、ゴリラ保護センター収容のアフリカ大型類人猿孤児に多くの犠牲個体がでた。すなわち、1992年6月にゴリラ保護センターのあるブラザビル市民社会にインフルエンザのウィルス性肺炎が流行し、ゴリラ保護センター収容中のアフリカ大型類人猿がこれに罹患、ニシローランドゴリラ5個体、ボノボ(ピグミーチンパンジー)1個体の計6個体が死亡する犠牲がでた。インフルエンザ死亡6個体の年齢は、1歳から2.5歳の乳児期前後の若年層が多く、3歳以上の年長組孤児は、インフルエンザに罹患したが治癒している。6個体の剖検ならびに病理組織学的検索結果は、気管支肺炎、肺水腫あるいは肺うっ血と肺に病変が認められた。小腸と一部の大腸に多数の糞線虫が認められた。3個体の肝臓は脂肪肝である。病理組織学的検索のため、ワシントン条約締結国であるコンゴ政府のアフリカ大型類人猿臓器標本の輸出許可と日本政府の輸入許可を受け、臓器標本を日本に持ち帰り検索に供した。1992年8月に発生したポリオ(急性灰白髄炎)に罹患した4個体のは、3.0から4.5歳の年長組である。2個体は2週間の高熱の急性経過後死へ転機した。高熱急性経過後、生へ転機した2個体は、後肢麻痺の後遺症をもち、リハビリテーションを実施している。死亡2個体の剖検ならびに病理組織織学的検索結果から、肺水腫と肺うっ血が肺に認められた。1992年の神経性拒食症からの感染症合併による死亡がなくなる。そのあとに発生した、ヒト由来のインフルエンザとポリオの感染症の罹患で、ゴリラ保護センター収容中のアフリカ大型類人猿に多くの犠牲個体を出した。このヒト由来の感染症への対策として、国立コンゴ中央病院の医師と相談のうえ、1992年、ブラザビル市民社会に流行中の感染症に対する対策として、ゴリラ保護センターの管理従事者ならびに収容中の類人猿孤児にポリオ・ワクチンをはじめ各種ワクチンの接種をはじめている。1993年8月と1993年11月にベルギー・ブラッセルと英国カンタベリ-において、コンゴ国の共同研究分担者との間で、慎重に意見交換をした結果、ゴリラ保護センターでリハビリテーションの進行中の年長組を1994年夏に、ブラザビル120キロメートル北方の川辺林湿地帯50キロヘクタールに放すことを決定した。 2.比較解剖学的研究:比較解剖学的資料標本の軟部組織多用途利用可能な防腐保存処理をブラザビルにあるゴリラ保護センター内の剖検室で実施した。実施した防腐保存処理法の特徴は、類人猿冷凍個体を解凍後、固定前液を動脈系から注入、溶血した血液を静脈系から除去する方法を用いた。溶血液の静脈から排出後、動脈系から固定液を注入した。この防腐保存法の利点は、臓器をはじめ体幹、四肢末端まで固定液を注入することができることである。この血液除去、固定液注入は、長時間を要するが、防腐保存固定完了後は、液浸防腐保存の必要がなく、乾式保存が可能なことである。防腐保存処理を実施した個体は、コンゴ大学動植物標本室およびコンゴ・ゴリラ保護センターに保存中である。 まとめ:親が密猟後、その孤児を捕獲する悪習の犠牲となるアフリカ大型類人猿は、コンゴ政府森林経済省自然保護局は、年間400から600個体と推定している。捕獲されて動物業者の手に渡り、国外へ密輸出のゴリラ孤児をワシントン条約締結国であるコンゴ政府は、水際作戦でゴリラ孤児の没収保護に務めている。コンゴ政府の要請で、アフリカ大型類人猿孤児の死因究明の臨床病理学的ならびに比較解剖学的共同研究を予備調査を含め23年間に亘り、コンゴ・ベルギー・フランス・英国で実施してきた。アフリカ大型類人猿孤児の死因究明の剖検と病理組織学的検索結果からの臨床と飼育管理へ還元するべき主旨はほぼ達成した。比較解剖学的研究は、今後の課題である。
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