バイカル湖における環境-物質循環-生態系の相互作用に関する研究

1994 年度 研究成果報告書概要

• 研究課題/領域番号: 04044155
• 研究種目: 国際学術研究
• 配分区分: 補助金
• 応募区分: 共同研究
• 研究機関: 岡山理科大学
• 研究代表者: 奥田 節夫 岡山理科大学, 理学部, 教授 (40027206)
• 研究分担者: SHIMARAEV M. ロシア科学アカデミー, シベリア支部・陸水学研究所・水文物理部門, 主任研究員 ; KUZUMIN M.I. ロシア科学アカデミー, シベリア支部・地球化学研究所, 所長 ; 川那部 浩哉 京都大学, 生態学研究センター, センター長 (60025286) ; 和田 英太郎 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40013578) ; 渡辺 泰徳 東京都立大学, 理学部, 助教授 (20112477) ; 竹内 章 富山大学, 理学部, 助教授 (20126494) ; 相馬 光之 国立環境研究所, 化学環境部, 上席研究官 (00011552) ; 河合 崇欣 国立環境研究所, 化学環境部, 主任研究官 (50109906) ; 井内 美郎 地質調査所, 海洋地質部, 主任研究官 ; GRACHEV M.A. ロシア科学アカデミー, シベリア支部・陸水学研究所, 所長
• 研究期間 (年度): 1992 – 1994
• キーワード: バイカル湖 / 物質循環 / 生態系 / サーマルバ- / 堆積環境 / 汚染指標 / 安定同位体 / 食物網

研究概要

本年度は3年間継続の最終年度にあたるので、それぞれの研究分担課題の予定作業を仕上げるとともに、分担課題ごとのまとめと全課題を通じての総括、報告に努めた。以下にグループ別および総括的な成果について報告する。
1.分担グループ別研究実績報告
(1)湖沼物理学分野の研究
昨年に続いて初夏のサーマルバ-の発達機構とセレンガ川からの流入水の湖内への拡がり状態を観測し、湖東岸には、本年も明瞭にサーマルバ-が出現しており、その状態はセレンガ川の水の北上のパターンによって水域ごとにかなり異なることを確認した。ただし、予想したセレンガ川からの乱泥流の存在は、今回は洪水期でなくて確認できなかった。年来の日、ロ共同研究の目標であったバイカル湖の湖沼物理学分野の過去の研究業績を、英文にして国際的に紹介する作業については予定どおり日、ロ共同編集による "PHYSICAL LIMNOLOGY OF LAKE BAIKAL A REVEW"を1994年12月に刊行した。
(2)湖沼化学分野の研究
本年度は光合成色素のカルチノイド、クロロフィルを中心に指標物質の保存性と堆積層の安定性に関する研究が行われた。南湖盆の湖底表層試料より、β-カロチンは変動が大きく湖内の藻類量変動を示す適当な指標になり得ることが示された。また種々の色素の分布は藻類の消長を反映し、かなり古い年代まで色素が保存されることが期待された。またアカデミアリッジの試料の全有機炭酸、無機成分の分析から氷期、間氷期の変動を反映する良好な測定結果が得られ、バイカル湖では、安定した記録試料が提供されることが確認された。
(3)湖沼生物学分野の研究
安定同位体比による食物網の研究については、δ^<13>C値によって沖帯と沿岸帯の食物網がかなり明確に分けられ、沿岸帯ではδ^<13>Cが有効なパラメータになり沖帯ではδ^<15>Nが有効であることが示された。一方堆積コアの測定では、同位体比によって有機物の起源の推定(堆積物の陸起源か湖内起源かの判別)が可能なことが示された。微生物群集の季節的変動の研究については、水温成層の形成にともなってピコシアノバクテリアが増加し始め、温水表層がある程度の厚みになってから急速に増殖し、盛夏に最盛期に達したのちの栄養元素のバランスから現存量の定常状態が保たれ、その後風による鉛直撹乱によって表層水温が下がるとともにそのブルームは消減することが明らかになった。
(4)地学分野の研究
地学分野では、湖周辺の断層沿いの温泉で炭酸カルシウム堆積物が生成されていることから、深い湖底においても断層沿いの温泉、鉱泉による特異な化学物質の供給や湧水系生物群集の存在の可能性が指摘された。また大洪水や大地震によって異常な物質流入を引き起こす可能性があり、turbidite層内の細かい特徴を調べるためにX線CT法をバイカル湖の堆積物に適用してその有効性が確かめられた。
2.総括成果
1.の研究成果から総合的に検討して得られた主要な結果は次の通りである。
(1)河川からの物質流入は、表層湖岸沿いに流れて沿岸帯から沖帯に拡がる経路と乱泥流となって湖底沿いに拡がる経路があり、前者についてはサーマルバ-の存在が沿岸帯と沖帯との間の水、物質の交換に特殊な作用を及ぼしている。沿岸帯と沖帯の生態系の差異は、両帯間の水の交換にある程度依存する。
(2)表層のプランクトンの発生、消滅については、熱収支、とくに水温躍層の形成と栄養塩輸送が大きな要因であり、プランクトンの発生による光の吸収が水温分布に及ぼす影響も考慮した物理、生物分野の共同観測が必要である。
(3)とくに深層の異常に速い水の交換については、単にサーマルバ-での水の沈降結果と限定しないで、(1)の乱泥流の寄与も考慮して、物理、化学、生物、地学の諸現象をふくめて、その原因と生態系に及ぼす影響を検討しなければならない。その際総合的なモデリングと数値実験的検討が有効であろう。
なお、今回の研究成果については、さらに総合的な報告書を作成して発表する予定である。

研究成果

• [文献書誌] M.N.SHIMARAEV,M.A.GRACHEV,S.OKUDA,et al.: "International hydrophysical experiment in Baikal:deep water renewal process in spring(in Russian)" Report of Russian Academy of Science,Section of Geography(in Russian). (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 秋友和典,田中 潔,淡路敏之,今里哲久,奥田節夫: "淡水湖における深い対流" 月刊「海洋」シンポジウム 海の物理 特集. 号外No.6. 161-166 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Y.SOMA,A.TANAKA,M.SOMA and T.KAWAI: "Photosynthetic pigments and perylene in the sediment of southern basin of Lake Baikal." Org,Geochem.(in prep.). (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] T.NAGATA,Y.WATANABE,et al.: "Autrophic picoplankton in Lake Baikal." J.Plankton Research. 16. 945-959 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] Y.WATANABE,T.SATOH O.MOLOGAWAYA and V.DRUCKER: "Intiation of picocyanobacteria bloom in pelagic zone of spothern Lake Baikal." J.Plankton Research. (in prep.).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] E.WADA,Y.KABAYA and Y.KURIHARA: "Stable isotopic structure of aquatic ecosystems" Bioscience. 18. 483-499 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 和田英太郎,山田佳裕: "沈黙の同位体で探る湖の生態系" 化学. 49. 141-146 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] E.WADA,K.YOSHII,T.KAWAI et,al.: "Hydrobiogeochemistry of Lake Baikal:its scope and preliminary survey" Publ.Itako Hydrobiol.Stn.Ibaaraki Univ.8(in press). (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 藤井昭二,酒井英男,堀井雅恵,河合崇欣,M.A.Grachev,E.Karabanov: "Sediments in the Lake Baikal and their Environment" Proceeding of the 3rd Symposium on Geo-Environments and Geotechnics. 3. 129-132 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] M.N.SHIMARAEV and S.OKUDA co-ed.: "PHYSICAL LIMNOLOGY OF LAKE BAIKAL:A REVIEW" BICER, 81 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 河合崇欣: "バイカル湖研究へのアプローチ「バイカル湖」第1章" 東京大学出版会, 20 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 藤井昭二: "バイカル湖の地形と地質「バイカル湖」第2章" 東京大学出版会, 36 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 奥田節夫: "バイカル湖の物理的特性「バイカル湖」第3章" 東京大学出版会, 24 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 渡辺泰徳: "バイカル湖のプランクトン「バイカル湖」第6章" 東京大学出版会, 24 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] 和田英太郎: "安定同位体比を利用した物質循環の解明「バイカル湖」第10章" 東京大学出版会, 20 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(和文)」より
• [文献書誌] M.N.SHIMARAEV, M.A.GRACHEV, S.OKUDA,et al.: "International hydrophysical experiment in Baikal : deep water renewal process in spring(in Russian)" Jour.of Russian Academy of Science, Section of Geography. (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] K.AKITOMO, S.OKUDA, et al.: "Deep convection in a fresh lake(in Japanese)" KAIYO,MONTHLY(Symposium on Physics of Sea). Spec.No6. 161-166 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Y.SOMA,et al.: "Photosynthetic pigments and perylene in the sediment of southern basin of Lake Baikal" Org.Geochem.(in prep.).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] T.NAGATA, Y.WATANABE, et al.: "Autotrophic picoplankton in Lake Baikal." Jour.of Plankton Research. 16. 945-959 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Y.WATANABE, et al.: "Initation of picocyanobacteria bloom in pelagic zone of southern Lake Baikal" Jour.of Plankton Research. (in prep.).
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] E.WADA,et al.: "Stable isotopic structure of aquatic ecosystems" Bioscience. 18. 483-499 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] E.WADA and Y.YAMADA: "Lake ecosystems from stable isotopic viewpoints (in Japanese)" Kagaku. 49. 719-723 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] E.WADA,et al.: "Hydrogeochemistry of Lake Baikal : its scope and preliminary survey" Publ.Itako Hydrobiol.Stn. Ibaraki Univ.8(in press). (1995)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Fujii.S, H.Dakai, M.Horii, T.Kawai, E.Karabanov and M.A.Grachev: "Sediments in the Lake Baikal and their Environment" Proceeding of the 3rd symposium on Geoenvironments and Geotechnics. 3. 129-132 (1993)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] M.N.SHIMARAEV and S.OKUDA co.ed.: BICER. PHYSICAL LIMNOLOGY OF LAKE BAIKAL : A REVIEW, 1-81 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Takayoshi KAWAI: Tokyo University Press. Approach to Lake Baikal Study, Chap.1 of"Lake Baikal" (in Japanese), 3-22 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Shoji FUJII: Tokyo University Press. Geomorphology and Geology of Lake Baikal, Chap.2 of "Lake Baikal" (in Japanese), 23-58 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Setsuo OKUDA: Tokyo University Press. Physical features of Lake Baikal, Chap.3 of "Lake Baikal" (in Japanese), 59-82 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Yasunori WATANABE: Tokyo University Press. Plankton of Lake Baikal, Chap.6 of *Lake Baikal"(in Japanese), 113-136 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より
• [文献書誌] Eitaro WADA: Tokyo University Press. Material cycling from stable isotopic viewpoints in Lake Baikal, Chap.10 of "Lake Baikal" (in Japanese), 227-245 (1994)
  • 説明: 「研究成果報告書概要(欧文)」より