研究課題
国際学術研究
本研究の目的は、ジフテリア毒素を用いて遺伝子発現を調節する因子や核内で働く酵素を細胞の外から細胞核に輸送する新しいシステムを確立し、遺伝病の治療や細胞外からの遺伝子発現の調節を目指すものである。この目的のために、ジフテリア毒素のBフラグメントとT4ファージ由来のエンドヌクレアーゼVから成る融合タンパク質を作成し、エンドヌクレアーゼ欠損の遺伝病である色素性乾皮症の細胞に加え、融合タンパク質が機能するかどうかを検討した。実験は以下の四つのパートに分けて行った。すなわち、(1)ジフテリア毒素BフラグメントとエンドヌクレアーゼVの融合遺伝子の作成と大腸菌でのタンパク質の産生、(2)菌体内で合成された融合タンパク質のリフォールディングと精製、(3)融合タンパク質の性状の蛋白化学的、生化学的解析、(4)色素性乾皮症細胞を用いての活性の検討、である。このうち(1)(2)のステップは平成4年度に行い、概ね初期の目的を達成した。平成5年度は、主に(3)(4)のステップを行い、以下のような成果を得た。ステップ(3)に関して精製した融合タンパク質について、そのジフテリア毒素リセプターへの結合活性、エンドヌクレアーゼ活性を調べた。ジフテリア毒素リセプターへの結合活性はジフテリア毒素本来の結合活性より約10倍高く、エンドヌクレアーゼ活性は約50%であった。これらの値は、当初予想した期待値よりはるかに高く、本研究目的に充分使用できるものであった。また、これらの結果は、ステップ(1)(2)がうまく行われていることを証明すると同時に、分子の設計によっては、本来の毒素より強いアフィニティーを持った分子の作製が可能であることを示した。融合タンパク質が細胞内でエンドヌクレアーゼを遊離するためには、プロテアーゼによる分子内ニッキングを受ける必要がある。作製した融合タンパク質は、ジフテリア毒素のA、Bフラグメント間に存在するプロテアーゼ切断部位を含んでいるが、これらが融合タンパク質においても有効に機能するかどうかを調べた。その結果、細胞由来のプロテアーゼによる切断はDTと比べると悪くなっていた。しかし、トリプシンによる限定分解によって切断されることが明らかになったので、精製融合タンパク質はトリプシンで人為的にニッキングを加えてからステップ(4)の実験に使用した。この実験に関連して、ジフテリア毒素のニッキングのメカニズムについても詳細に調べることとなり、ジフテリア毒素のニッキングにfurinという細胞膜結合プロテアーゼが関与していることを明らかにする事が出来た。ステップ(4)に関して融合タンパク質を色素性乾皮症(XP)A群の培養細胞に加え、UV照射後に^3H-チミジンを加えて、不定期DNA合成の程度をオートラジオグラフィーにて調べた。その結果、融合タンパク質を加えたXP細胞では極めてわずかながら不定期DNA合成の上昇が認められた。しかし、その効果を実用的なレベルにまで高めるためには、さらなる改良が必要であると判断された。融合タンパク質が、細胞内に入り最終的に核内に到達して作用を発揮するためにはいくつかのステップがある。そこで、今回作製した融合タンパク質の効率の悪さがどのステップに起因するかを調べるために、融合タンパク質の細胞質内へのトランスポートを調べるin vitroのアッセイ系を作成した。現在、作製したアッセイ系を用いて、融合タンパク質のトランスポート過程を詳細に解析中である。この結果をふまえて今後より有効な分子の作製を目指したい。
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