研究課題/領域番号 |
04044180
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研究種目 |
国際学術研究
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 共同研究 |
研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
長野 泰彦 国立民族学博物館, 第5研究部, 助教授 (50142013)
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研究分担者 |
ドルジェ ツェデン 中国蔵学研究中心, 教授
ツェリン ドルマ 全インド放送協会, 資料部, 研究員
北村 甫 麗澤大学, 外国語学部, 教授 (80014455)
TSERING dolma All India Radio
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研究期間 (年度) |
1992 – 1993
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キーワード | チベット語 / 能格 / 助辞 / 文法 |
研究概要 |
(1)第1回研究集会(5年度)の結果作成することとなった、主語・態・能格についての形態統辞論にかかる諸問題を解明するための質問票を用いて調査を行った。長野・北村はデラドゥン市で能格とヴォイスについて、ツェリン・ドルマはデラドゥン市で統辞変容について、又、ドルジェ・ツェデンはラサ市で語構成について、それぞれ調査を行った。 長野の調査では、能格助辞-kyisの用法と文法的分布に焦点が当てられ、従前調査していたチベット語においても、-kyisが伝統的文法学の定めるところとは大いに異なる出現の仕方をすること、能格のいわゆるsplitの条件が従来言われていたのとは違う分布を示すことが確認された。また、-kyisが主題をマークする機能を持つ新しいチベット語を話す層が若年層の中に相当数いることが明らかになった。この変化は現在チベット自治区で起きているそれと平行しており、新方言の成立過程や言語変化の普遍性を検討する上で重要な示唆を与えてくれる。 北村の調査は態について集中的に行い、能格現象の非整合性にチベット語の態のあり方を切るヒントが隠されていることを発見した。このことは、逆に言うならば、チベット語の能格が本来的なものでなく、何らかの原因で後から発展してきたものであること、本来チベット語には態の区別があったことを示唆するものである。 ツェリンはチベット語とヒンディー語のバイリンガリズムをとりあげ、特に動詞の用法にどのような影響が及ぶかを調査した。この結果、補助動詞・助動詞の用法に顕著なbiasが認められた。 ドルジェはチベット語と中国語のバイリンガルについて、その語構成レベルでの相互干渉を調査した。その結果、新語を形成する場合、そこに作用する統辞的メカニズムが、一時有力だった中国語的なものからチベット語的なものへと変化していることを確認した。 (2)第2回研究集会をインド・デラドゥン市で開催し、北村甫を除く全員が参加した。現在理論言語学の分野で特に注目を集めている、主語・能格・ヴォイスにかかる形態統辞論的事象について、チベット独自の文法学・従前のチベット語研究・最近の言語理論の角度から各々がそれらに関する理解を述べ、コメントを交わした。 チベット人研究者からはシツ、チェ・キ・ドゥク、スムリティ、法賢、音成就金剛などの文法学における格と受動態に関する諸理論の批判が提出され、日本側からは近年の文法理論、特に関係文法やGB理論に立脚した、チベット語統辞論の問題点が指摘された。 主語・態・能格は互いに深く関連した事柄であり、これについて議論が集中した。古いチベット語仏教文献では、能格マーカーの出現の条件が伝統的文法学とは大きく隔たっており、むしろそれの方がチベット語本来の姿ではないかとの結論に達した。 (3)また、研究集会では、調査成果のデータベース化と成果発表方法について協議した。 研究成果の公表方法については日本側・中国側・インド側がそれぞれ独自に記述文法を刊行することが概ね了解された。本来共同の文法が書かれるのが望ましいが、各国での言語学の関心に相当の開きがあり、また、理論的な各人の立場も異なるため、別個の出版を考えることとした。 研究成果と資料の相手国への還元は、代表者・分担者が集積したデータの自由かつ迅速な相互利用という形で行う。データは国立民族学博物館の電算機に入力し、分担者が本国からアクセスできるよう配慮する。中国との間ではIBMのBITNETによるE-Mailを用いて随時、インドとの間では必要に応じてフロッピ-のやり取りによって、データ利用を円滑に進める。 (4)インド側研究分担者を大阪に招聘し、データのデータベース化を行う予定であったが、本人の健康状態からそれが困難になったので、研究協力者2名を派遣し、その欠を補った。
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