研究概要 |
本研究の主要目的はこれまで我国の科学研究の一般的傾向として情報の交換・人的交流が欧米に偏り,隣国韓国とは充分な交流が行われてこなかったとの認識に立って,今後両国がアジアの先進国として,アジア地域の繁殖のために水産増養殖研究,特にその基礎となる魚類の遺伝・育種・繁殖に関する研究分野において,科学研究協力の基礎作りとすることにあった。現在韓国から水産研究の分野で多数の留学生が我国で学んでいるが,韓国における水産増養殖の研究,特に今回の研究テーマである硬骨魚類の遺伝・育種・繁殖に関する研究の実体が十分に把握されていなかった。 今回の国際学術研究において建国大学,畜産学科,家畜遺伝育種研究室の朴 弘陽教授の協力を得て,建国大学において魚類の遺伝育種に関するセミナーを開催し,建国大学における研究の実体を把握した。現在ソウル地域には水産培養殖研究にかかわる大学,研究機関は存在せず,建国大学に将来,水産に関する学科を新設する計画があり,我々との研究を強く希望していた。また韓国のアジアに誇るベき規模を有する,韓国海洋研究において魚類の遺伝・育種に関する研究報告会を開催し,関連の研究者と情報交換を行った。済州島では韓国国立水産振興院,水産種苗培養場を訪れ,ヒラメの種苗生産と親魚の繁殖,受精卵の管理と稚魚の飼育,養成に関する問題点について情報交換を行った。釜山地域では,韓国唯一の釜山水産大学校と水産振興院を訪れた。水産振興院では, 魚の遺伝解析をアイソザイムを指標として行い,また魚類の培数体統卸の研究を行っており,これらの研究の実情を視察した。釜山大学においては特に将来の研究協力について積極的な提言があり,アジアの指導国として日本の科学研究の推進と国際協力について,水産大学校学長から発言があり,情報交換の場においては,日本と韓国の類似性が強調され,また過去の不幸な厂史を卆直に受け止めて将来の友 と親善を基調とした研究協力の必要性について話し合いが行われた。また個別研究者との交流において特にヒラメの性統御と染色体操作,ウナギの性決定機構に関する研究の現状と日本の研究の実状について討論した。 本研究を通して韓国の魚類の遺伝・育種・繁殖に関する研究の現状を把握した。我々の研究は韓国の研究レベルと比較すると高いレベルであるが,今後の研究はやはり,それぞれが地域の特性を生かして独自の道を進むことが重要と思われる。韓国の水産増養殖研究で注目すベき研究は,釜山水産大学の現名誉教授,金仁培氏が行っている省エネを基調とした親魚養成法の開発に関する研究である。我国では結果的にエネルギー消費の増大を伴う親魚の養成,飼育管理が行われており,今後の大きな課題となる。 今回韓国との学術研究で遂行しようとした研究は,魚類の染色体操作の有用性と問題点と魚類の発生,統御,魚類精子の凍結とその応用,魚類の卵黄形成と肝機能について明らかにすることであった。魚類の染色体操作は原理的には単純な技術によって行われており,現在新しい手法が生まれる見透しは少ない。性の統御,不妊性雌3倍体の作出に応用の道が拓らかれる可能性があるが,現在我々の研究で,操作によって染色体自体に形態的異常を引き起こすことが明らかになり,育種への応用に慎重性が求められる。魚類の発生工学的研究により初期発生胚の融合によりキメラの作成が可能であることからまた卵の機械的分割技術を応用した発生操作研究により胚軸形成に不可欠な物質とその存在部位に関して新知見を得た。魚卵の精子凍結法はコイ科の魚およびサケ・マス類で開発され,一般にペレット法の有用性が指摘されているが,本研究ではこれをヒラメに応用し,有効性を明らかにした。この方法により生殖期を異にするカレイ類の交雑も可能となる。肝臓でのビテロゲニンの合成は魚類の成熟の基本的な現象であり,本研究で肝細胞の培養によって初めてウナギのビテロゲニンの合成には下垂体のGTが関与することを初めて明らかにした。韓国側から朴教授が日本を訪れ,今後予定として化学標識による個体識別,性転換,精子長期保存等の技術を利用しながら有用品種を作出する研究を次回からは韓国政府の援助により共同研究を継続することとなった。
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