研究課題/領域番号 |
04044193
|
研究種目 |
国際学術研究
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡崎国立共同研究機構 |
研究代表者 |
諸熊 奎治 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 教授 (40111083)
|
研究分担者 |
DEDIEU Alain ルイ, パスツール大学・量子化学研究室, 室長
LEFORESTIER クロード パリ南大学, 理論化学研究室, 教授
古賀 伸明 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 助手 (80186650)
山下 晃一 基礎化学研究所, 主任研究員 (40175659)
|
研究期間 (年度) |
1992
|
キーワード | 複素回転座標法 / DVR法 / 共鳴散乱状態 / 遷移状態分光 / オキソ錯体 / ヒドロキシル化 / 非経験的分子軌道法 / 理論化学 |
研究概要 |
化学反応研究において最も基本的な概念である遷移状態の電子構造と動力学を、電子状態理論と動力学理論に基づいた理論計算により解明することを共同研究の目的とし、(1)気相反応の遷移状態領域におけるポテンシャル面と動力学、(2)有機遷移金属反応と錯体触媒反応サイクルにおける遷移状態の構造と反応経路という二つの興味ある問題を対象とした。具体的には、課題1では、複素DVR法による遷移状態領域の共鳴散乱状態の理論計算、課題2では、pd錯体と過酸化水素を用いたヒドロキシル化反応のポテンシャル面の理論計算を行った。 (複素DVR法による遷移状態領域の共鳴散乱状態の理論計算) C1HC1アニオンは安定に存在するが、Franck-Condon領域は中性C1+HC1→C1H+C1反応の遷移状態領域に対応する。Neumark等はアニオンの光電子スペクトルに、遷移状態領域における非対称伸縮振動のプログレションを観測した。この準安定な振動状態(共鳴散乱状態)のエネルギー順位と幅(寿命)を求めるため、複素回転座標をグリッド法に導入した複素DVR(Discrete Variable Representation)法を開発した。共鳴散乱状態を特徴づける複素固有エネルギー(E=Re(E)+ilm(E))は、一般的には座標系を複素平面に回転し、得られた複素固有値問題を解くことにより得られる。得られる複素行列を直接対角化するか、大次元の場合は複素Lanczos法を用いて反復的に固有値を求める。複素固有値のαについての停留値が求める共鳴散乱状態の複素固有値に対応する。 C1HC1の場合、越球座標系を用いると動径座標ρがC1+HC1解離の反応座標に良く対応する。ポテンシャル関数としてはLEFSを用いた。ρに沿って振動断熱ポテンシャル曲線を描くとエネルギー値5000、7000cm^<-1>あたりに形状型共鳴散乱状態を形成すると考えられる窪みが見られた。そこでρを複素回転座標とした(ρ exp(iα))。5000cm^<-1>近傍の共鳴散乱状態について、3次元グリッド(ρ、x、θ)を用い複素Lanczos法により対角化すると、複素固有値はα=0.12ラジアンで虚部が停留値を示し、共鳴散乱状態の共鳴エネルギ-は5189.9cm^<-4>、幅(2×Im(E))は16.9cm^<-1>と得られた。(pd錯体と過酸化水素を用いたヒドロキシル化反応のポテンシャル面) 近年、この分野では、t-BuOOHと10属遷移金属錯体を用いた炭化水素のヒドロキシル化反応が注目を集めている。そこで、van Kotenらによる実験をモデル化した、Pd(CH_3)_2(NH_3)_2+H_2O_2について、非経験的分子軌道法を用いて、オキソ錯体中間体の構造と電子状態や反応のポテンシャル面について検討した。とくに、オキソ錯体、Pd(CH_3)(NH_3)_2(O)が反応中間体として安定に存在し得るか、もし存在するのであれば、その安定性はいかほどか、またオキソ錯体以外の中間体や生成物の構造についても検討を加えた。このオキソ錯体を与える反応、Pd(CH_3)_2(NH_3)_2+H_2O_2→Pd(CH_2)_2(NH_3)_2(O+H_2O、は電子相関を考慮したMP2法によれば、たかだか2kcal/mol吸熱的であるにすぎず、オキソ錯体は中間体として存在することが示唆された。 また、Zr錯体反応のポテンシャル面についても計算をおこなった。それは、X_2Zr(C_2H_4)とSiH_4の反応で、オレフィンのヒドロシリン化の重要な素反応と考えられているものである。非経験的分子軌道法によって、その反応物、遷移状態、生成物の構造を決定し、反応のポテンシャル面を求めた。この反応では生成物にはX_2Zr(C_2H_4SiH_3)(H)(経路A)とX_2Zr(C_2H_5)(SiH_3)(経路B)とが可能であるが、計算の結果経路Aの方が、活性化エネルギーにおいても反応熱においても有利であることが明きらかとなった。経路Aも経路Bも反応経路は、いわゆる、σメタセシス反応であり、一段階で進む。経路Aはヒドリド転位とも考えられるが、この経路が有利であるのは、遷移状態の多中心相互作用にとって球対称のヒドリドが好都合であるからである。
|