研究課題
1.遺伝子分析平成4年度中に食道癌組織を中国側から50例、本邦から10例入手出来た。第一段階として両群について大腸癌、胃癌でしばしば欠失がみられるAPC遺伝子の検索を行った。抽出したDNAを鋳型としてPCAを用いてAPC遺伝子のexon11の領域を増幅した。RsaIを用いて酵素反応を進めた結果、57%が正常組織にheterozygousなalleleを有するinformative caseであり、全例にloss of heterozygosityはみられなかった。また、APC遺伝子のmutation cluster regionを含んだcodon735-1547の領域をPCR法で増幅して塩基配列を検索した。50例中2例に異常を認め、この2例のPCR産物をクローニングして塩基配列を調べたところ、いずれもpoli-morphismであり、APC遺伝子の発現に支障をきたすような変異は認められなかった。以上の結果から食道癌の発生にはAPC遺伝子の異常は関与していないと考えられたので、平成5年度には消化器癌で最も異常の頻度が高いP53につき異常頻度、塩基配列等につき検索する。2.環境因子の分析中国における食道癌の発生には従来指摘されていたニトロソ化合物の他に今回の中国側の検策結果により、Mo、Zn、Cu、Mg、Mn、Coなどの微量元素摂取量が低く、これも食道癌発生の要因になっている可能性が指摘された。これは本邦の平均摂取量と比較しても低く、今後さらに検討する必要のある重要事項と考えられる。入手した日中食道癌組織を用いて食道粘膜中に存在するニトロソ化合物の代謝酵素cytochrome p450を現在分析中であり、興味ある所見が得られつつある。微量元素とともに平成5年度の重要課題としたい。3.手術成績の比較日中両国では外科手術に対する考え方の相違により、食道癌に対する標準的手術には可成りの差がみられ、とくにリンパ節郭清の程度の差は顕著である。今回は予備調査として両国の食道癌手術例についてoverallの手術成績を比較したところ、5年、10年生在率に大きな差はみられなかった。これはリンパ節郭清の意義に関する重要な所見であり、平成5年度にはさらに病期をそろえて正確な比較を行いたい。
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