研究概要 |
層状複水酸化物(LDH)は、一般式[M^<2+>_xM^<3+>_<1-x>(OH)_2][A^<n->_<×/n>・yH_2O]であらわされる層状の不定比化合物である。構造は正電荷をもつ水酸化物層(ホスト基本層)が積み重なり、その層間に負電荷をもつ陰イオン(ゲストイオン)挟まったサンドイッチ構造である。このLDHは層間の陰イオンA^<n->が交換できるというユニークな特性をもつことから、機能性材料設計のための出発物質あるいは陰イオンの固定化材として最近大きな注目を集めている。一方、ヘテロボリ酸やシリカは触媒として優れた機能を有しており、工業的にも広く用いられている。そこで、これらゲスト物質をLDHの層間に挿入し、LDH架橋体を合成することができれば、触媒活性点が規則正しい空間に囲まれた、いわゆる分子形状選択性触媒や分子フルイとしての新機能の発現が期待できる。本研究では、つぎの二つの方法によるLDH架橋体の合成を行った。すなわち、1.有機陰イオン型Mg-Al系LDHへのケイ酸イオンのイオン交換による合成、2.共沈法によるヘテロポリ酸型Zn-Al系LDHの直接合成である。 1.有機イオン型Mg-Al系LDHへのケイ酸イオンのイオン交換による架橋体の合成 本研究では、層間距離の異なるカルボン酸型Mg-Al系LDHを共沈法によって直接合成し、これへのケイ酸イオンのインターカレーションを行った。カルボン酸としては4種類を用い、アジビン酸(AD)型LDH(d_<003>=13.9Å)、テレフタル酸(TE)形LDH(d_<003>=14.5Å)、セバシン酸(SE)型LDH(d_<003>=16.8Å)、ララウリン酸(LA)型LDH(d_<003>=31.5Å)を合成した。また、比較のため塩化物型LDH(d_<003>=7.8Å)も用いた。インターカレーションは、所定濃度のNaOH水溶液にシリカ粉末を添加し、ついで出発LDHスラリーを添加したのち、窒素雰囲気下、100゚Cの条件で行った。 その結果、ケイ酸イオンのインターカレーションは0.05M以上のNaOH濃度で起こり、2.5hでほぼ終了することがわかった。固体生成物はいずれの場合もd_<003>=11.4〜12.1Åの層状構造を保っていたが、結晶性は出発LDHの層間距離によって大きく影響を受けることが認められた。出発LDHの層間距離が異なっても固体生成物のd_<003>が大体同じということは、層間内でのケイ酸の重合形態が同じであることを示しいてる。MAS-NMR,FT-IR,細孔分布測定などの結果から、固体生成物層間のシリカはシワ状のフィロケイ酸であると推定された。出発LDHとしては、固体生成物のd_<003>より少し大きいAD-LDHを用いることによりもっとも結晶性のよい架橋体を得ることがわかった。これよりd_<003>の小さい塩化物型LDHや大きいSE-LDHでは結晶性は低下し、LA-LDHでは無定形となった。以上の結晶から、LDH層間へのケイ酸イオンのインターカレーションと重合の挙動が明かとなり、結晶性に優れたシリカ-LDH架橋体を簡便な方法で合成することが可能となった。 2.共沈法によるヘテロポリ酸型Zn-Al系LDHの直接合成 LDHへのヘテロポリ酸(POM)のインターカレーションは、これまでも塩化物型LDHを用いるイオン交換法やLDH熱分解物を用いる再構築法によって行われてきた。そこで、本研究では新しい手法を開発する目的で、共沈によるPOM-LDH架橋体の直接合成を試みた。POMとしては比較的加水分解し難いα-[SiW_<11>O_<39>]^8-を取り上げ、ホスト成分としては塩基度の低いZn-Al系の硝酸塩を用いた。共沈反応は、所定濃度のPOM水溶液にZn/Al比2の混合硝酸塩水溶液を滴下し、pHを調整しながらかきまぜるという簡単な方法によって行った。 その結果、pH6付近、温度100゚Cの条件で、d_<003>=14.6Åの結晶性がきわめてよいPOM-LDH架橋体が得られた。比表面積は97m^2/gであった。pHが5以下ではLDHが生成せず、7以上ではPOMが加水分解しd_<003>の小さいLDHが生成した。温度は高いほど架橋体の結晶性はよく、反応時間は30minが最適であった。ここで特徴的なことは、生成架橋体の結晶性が他の方法のものより数段優れていたことである。この方法は、あらゆるPOMに対して適用可能とはいえないが、簡便で結晶性の高い架橋体を合成する方法として有望である。
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