古代生活環境復原のための新手法の確立

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 04101001
• 研究機関: 国立歴史民俗博物館
• 研究代表者: 佐原 眞 国立歴史民俗博物館, 副館長 (20000466)
• 研究分担者: 松井 章 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 主任研究官 (20157225) ; 石黒 直隆 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教授 (00109521) ; 中野 益男 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (30111199)
• キーワード: 古環境復原 / 土壌微細形態学 / ハイドロキシ脂肪酸 / コレステロール / コプロスタノール / 血液型糖脂質群 / 在来犬 / ミトコンドリアDNA

研究概要

本年度の遺跡資料の収集と観察、脂質分析、免疫試験及びミトコンドリアDNAの解析に関する研究成果の主要なものについて報告する。
1.動物遺存体の調査と資料の収集
沖縄の本土弥生時代併行期の貝塚出土の動物遺存体を調査し、在来のリュウキュウイノシシよりはるかに大きい臼歯、四肢骨が含まれていることを発見した。大型のイノシシ科遺存体が、本土の弥生ブタである可能性を指摘できた。
2.土壌微細形態学的研究
堆積状態そのままの土壌を切り取り、そこから薄片を作成し、顕微鏡で観察した。岐阜県高山市垣内遺跡(縄文中期)の炉跡、大阪府八尾市池島・福万寺遺跡(弥生時代から近世)の水田遺構の土壌を調べた。炉跡からは被熱炭化物、水田土壌からは灌漑水湿性水田の特徴である糸根状斑鉄を確認した。愛媛県大三島萩の岡貝塚(縄文後期)の糞石からは魚骨を多数確認した。
3.土壙墓の免疫学的研究
土壙墓の性格をハイドロキシ脂肪酸、コレステロール、コプロスタノール及びヒト血液型糖脂質群の免疫反応から判定した。滋賀県八日市市雪野山古墳(古墳時代前期)、兵庫県龍野市新宮東山古墳群(4〜5世紀頃)の埋葬者の頭部位置がわかった。兵庫県神戸市舞子浜遺跡(4世紀末〜5世紀初頭)の8基の埴輪棺と1基の土器棺の埋葬者の血液型が判明した。墓群の血縁関係を知る手懸かりを得た。
4.日本在来犬・ブタ・イノシシのミトコンドリアDNAの塩基配列の解析
日本在来犬73頭、外国犬21頭、古代犬42頭、ブタ・イノシシ95頭よりミトコンドリアDNAを分離・増幅して、DループとチトクロームD領域の塩基配列を解析した。系統樹解析から古代家畜の遺伝的背景を明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] 中野益男ら: "西乙原遺跡・勝更白山神社周辺遺跡-勝更白山神社周辺遺跡から出土した土器に残存する脂肪の分析" 岐阜県文化財保護センター調査報告書. 22. 127-138 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "川合遺跡-川合遺跡から出土した井戸跡に残存する脂肪の分析" 静岡県埋蔵文化財調査研究所. 355-365 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "東武庫遺跡-東武庫遺跡から出土した遺構に残存する脂肪酸の分析" 兵庫県文化財調査報告. 150. 113-139 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "平城京左京三条一坊十四坪-平城京三条一坊十四坪から出土した土器に残存する脂肪の分析" 奈良国立文化財研究所. 27-36 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "相馬開発局関連遺跡調査報告III-段ノ原遺跡の土壌に残存する脂肪の分析" 福島県文化財調査報告書. 312. 1205-1214 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "瀬名遺跡IV-瀬名遺跡の遺構・遺物に残存する脂肪の分析" 静岡県埋蔵文化財調査研究所調査報告. 61. 211-228 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "籠峰遺跡の埋設土器に残存する脂肪について" 中郷村教育委員会. 1. 50-51 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "奈良市埋蔵文化財調査概要報告書-平城京右京二条三坊六坪から出土した土器に残存する脂肪の分析" 奈良市埋蔵文化財調査概要報告書,平成7年度. 30-37 (1995)
• [文献書誌] 中野益男ら: "新宮東山古墳群-新宮東山古墳群から出土した遺構に残存する脂肪の分析" 龍野市文化財調査報告. 16. 127-144 (1996)
• [文献書誌] 中野益男ら: "上蛇沢(1)遺跡-第1号埋設土器に残存する脂肪の分析" 青森県埋蔵文化財調査報告書. 198. 37-44 (1996)
• [文献書誌] 中野益男ら: "雪野山古墳の研究-雪野山古墳の石室内土壌に残存する脂肪の分析" 八日市市教育委員会. 433-443 (1996)
• [文献書誌] 中野益男ら: "正楽寺遺跡-正楽寺遺跡から出土した土噴に残存する脂肪の分析" 能登川町埋蔵文化財調査報告書. 40. 205-215 (1996)
• [文献書誌] 奥村直彦ら: "ミトコンドリアDNAのDループ領域からみた古代日本犬の遺伝的背景" 第19回日本分子生物学会年会. (1996)
• [文献書誌] 渡部琢磨ら: "ミトコンドリアのDNA非コード領域を用いた日本在来イノシシの遺伝的変異" 第19回日本分子生物学会年会. (1996)
• [文献書誌] 奥村直彦ら: "ミトコンドリアDNAの非コード領域からみた日本在来犬の遺伝的変異" 第121回日本獣医学会. (1996)
• [文献書誌] 石黒直隆ら: "動物遺存体(犬骨)が語る日本在来犬の由来" 第121回日本獣医学会. (1996)
• [文献書誌] 奥村直彦ら: "ミトコンドリアDNA非コード領域を用いた日本在来イノシシの遺伝的変異" 第122回日本獣医学会. (1997)
• [文献書誌] 石黒直隆ら: "弥生ブタの遺伝的背景と由来" 第122回日本獣医学会. (1997)
• [文献書誌] 中野寛子ら: "片野I遺跡-片野I遺跡の遺構に残存する脂肪の分析" 秋田県文化財調査報告. 265. 287-298 (1996)
• [文献書誌] Okumura,N.ら: "Geographic Population Structure and Sequence Divergence in the Mitochondria DNA Control Region of the Japanese Wild Boar (Sus sorofa leucomystax) with ・R Reference to Those of Domestic Pigs" Biochemical Genetics. 34. 179-189 (1996)
• [文献書誌] Okumura,N.: "Intra-and interbread genetic variations in Japanese native dog breeds (Canis familiaris)" Animal Genetics. 27. 397-405 (1996)
• [文献書誌] Nakano,H.& Nakano,M.: "Nutritional reconstruction of charcoal Subslance of food processing in Jomon Period by lipid analysis" Dog bodies,sacredisites and wetland archacology. WARP in Denmark. (1996)
• [文献書誌] 中野寛子ら: "糞石からみた縄文人の食の栄養化学" 日本栄養・食糧学会誌・講演要旨集. 50. 106- (1996)
• [文献書誌] 中野寛子ら: "灯明皿・甕に残存する脂質からみた古代・中世の油糧資源" 日本農芸化学会誌. 70. 235- (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "Postglacial hunter-gatherers in the Japanese Archipelago" Man and the Sea in Mesolithic. 327-334 (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "Archacological Investigations of anadoromous salmonid lishing" World Archaelogy,Routledge. 27. 444-460 (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "トイレ考古学" 大航海. 8. 38-45 (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "市宿横穴出土の骨角器・貝器・動物遺存体" 千葉県沼津市市宿横穴墓発掘調査報告書. 154-160 (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "郡遺跡出土の動物遺存体" 千葉県沼津市郡遺跡群発掘調査報告. 2. 326-342 (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "中世の食" 大航海. 14. 46-53 (1997)
• [文献書誌] 松井章ら: "糞石及び水田土壌の土壌微細形態学的研究" 第13回日本文化財科学会. 58-59 (1996)
• [文献書誌] 松井章ら: "考古学における土壌微細形態学の有効性" 日本考古学協会. 149-152 (1996)
• [文献書誌] 中野益男ら: "中野B遺跡から出土した土壌および土器に残存する脂肪の分析" 北海道埋蔵文化財センター調査報告書. 108. 805-814 (1996)
• [文献書誌] 中野益男ら: "石倉貝塚から出土した土壌に残存する脂肪の分析" 北海道埋蔵文化財センター. 109. 225-233 (1996)