分裂酵母ras1遺伝子はこの酵母の性的分化、特に接合フェロモン認識の情報伝達において不可欠の役割をもち、アデニル酸シクラーゼ活性の調節には関わらない。rasタンパク質の分子機能、特にrasにより調節される因子を解明する目的で、ras1とその関連遺伝子の解析を行い、以下のことが明らかにできた。 1.Ras1タンパク質を負に制御するGap1タンパク質を過剰に発現させると、ras機能が低下して分裂酵母は接合・胞子形成が満足にできない。この状態の細胞に、分裂酵母より単離したzfs1遺伝子を強く発現させると、胞子形成の効率が上昇した。zfs1のこのような性質は、先にras1変異株の胞子形成不全を抑える遺伝子として分離されたbyr1(stel)やbyr2(ste8)などと似ている。さらに、zfs1遺伝子を破壊した株では接合能が低下したが、この株にbyr1(stel)あるいはbyr2(ste8)を過剰に発現させると接合能が回復した。これらの知見は、xfs1の機能する位置がras1とbyr1 byr2の間にくることを示唆しており、興味深い。塩基配列から推定されるzfS1遺伝子産物は404アミノ酸からなり、2つのzinc-fingerモチーフをもっていた。そのC末端側には、マウスのgrowth factorに反応するimmediateearly gene Nup475と25%の相同性が認められた。予備的実験では、zfs1遺伝子産物はDNAに結合する能力をもっていた。 2.byr1の産物は、脊椎動物のMAPキナーゼ(MAPK)をリン酸化して活性化する酵素MAPKKと相同性をもつことが知られている。また動物ではMAPキナーゼカスケードがrasの下流にくることが示されている。分裂酵母における対応する状況を明確にするため、当教室の西田らとの共同研究を行った。その結果、アフリカツメガエルのMAPKが分裂酵母のMAPKホモログ(spk1遺伝子産物)に機能的に置き替わること、spk1産物はチロシンリン酸化されており、byr1がそのリン酸化に必要なことが明らかになった。
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