我々はret癌遺伝子導入マウスを作製し、高率にmelanocytic tumorを発生する系を確立している。ret癌遺伝子の細胞癌化機構をさらに詳しく解析する目的でmelanocytic tumorより細胞株(Mel-ret)を樹立した。Mel-ret細胞中のチロシン燐酸化蛋白が検出され、いずれも主に膜分画に存在することが判明した。特に85kDaのチロシン燐酸化が著明であった。 本年度はこれらのチロシン燐酸化蛋白の精製を試みた。Mel-ret細胞の膜分画を可溶化し、抗フォスフォチロシン抗体カラムに結合後、phenyl-phosphateで溶出した結果、約90%のpurityでチロシン燐酸化蛋白が精製された。一方、135kDa、120kDaの燐酸化蛋白はこの方法でほとんど精製できなかった。この粗精製の85kDaを用いてin vitro kinase assayを行うと、主に85kDa蛋白のみに ^<32>Pの取り込みが見られ、この蛋白自身にキナーゼ活性が存在することを示唆した。この結果はゲル内燐酸化反応によって、85kDa蛋白中に ^<32>が取り込まれたことからも支持された。In vitro kinase assayで燐酸化を受けた85kDa蛋白中のアミノ酸を分析すると、Mn^<2+>存在下ではチロシン残基が、Mg^<2+>存在下ではチロシンとセリン残基が燐酸化を受けていた。 本年度の研究によりMel-ret細胞中に存在する85kDaのチロシン燐酸化蛋白がフォスフォチロシン抗体カラムを用いて効率良く精製されることが判明した。In vitroおよびゲル内kinase assayによって85kDa蛋白自身にキナーゼ活性が存在することが示唆された。来年度は85kDa蛋白を大量に精製することにより、アミノ酸配列を決定し、そのcDNAのクローニングを行う予定である。
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