研究概要 |
マウス乳がんウイルス(MMTV)による白血病誘発の可能性は非常に古くから考えられていたが、遺伝子工学の技術がこの分野の研究に応用される様になってからもMMTVの全遺伝子を含んだ感染性DNAの作成が困難であったため、研究があまり進まなかった。バームスらが1988年になってようやく感染性DNAの構築に成功し、MMTVの分子レベルの新たな展開が始まった。我々の最近の研究成果を箇条書に要約すると:1)DBA/2マウスに発生する白血病細胞の中にはMMTVのプロウイルスが存在し、そのLTRにはORFに欠損を伴う一定の変異が必ず見られる。2)変異LTRはリンパ球内でのCAT遺伝子の発現にエンハンサー様活性があり、MMTVのリンパ球内での発現を強めていると考えられる。3)バームスの構築した乳がんを誘発しうる感染性MMTV-DNAのLTRを、白血病細胞より分離した変異MMTV-LTRを置換すると、白血病を誘発する感染性MMTV-DNAになった。4)MMTVによる白血病発生機構として、内在性のがん遺伝子の活性化が考えられる。MMTVの組込み部位の共通性の有無について、MMTVで誘発した50種の白血病細胞を利用して検討中であるがこれまでのところ共通挿入部位は同定されていない。 白血病発生に関与することが知られているがん遺伝子(pim-1,wint-1,N-myc,C-myc,int-2,P-53)について、その再構築変異の有無について検討したが、再構築変異は見られなかった。
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