本研究では、白血病細胞の分化誘導に於ける情報伝達系のクロストーク機構を明らかにする目的で、種々の分化誘導剤がヒト白血病細胞の情報伝達系、癌遺伝子の発現、細胞周期に与える影響を調べ、分化誘導剤を二つのグループに大別した。第一のグループは、レチノイン酸やダイゼイン等で、これらは細胞周期のG1期からの移行を阻害した。プロテインキナーゼAおよびプロテインキナーゼCの活性を増加させ、カゼインキナーゼ2の活性を減少させた。しかし、cdc2活性には変化を与えなかった。第二のグループは、カンプトテシンやVP16等のトポイソメラーゼの阻害剤やブファリンで、これらは細胞周期のG2/M期からの移行を阻害した。プロテインキナーゼに対しても、第2のグループは第1のグループとは異なった作用を示し、プロテインキナーゼAおよびプロテインキナーゼCの活性を減少させ、cdc2活性を上昇させたが、カゼインキナーゼ2の活性には変化を与えなかった。癌遺伝子であるc-mycに対しては両グループ共にその発現を減少させた。従って、白血病の分化誘導には少なくても二つの情報伝達系があることが明かとなった。種々のヒト白血病細胞に対し、第一のグループの誘導剤と第二のグループの誘導剤で処理すると分化誘導作用の相乗効果が見られることから、第一のグループによる情報伝達系と第二のグループによる情報伝達系はクロストークしていることが示唆された。
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