細胞に遺伝子を導入したのち、その発現レベルを必要に応じて外部から調節可能なベクターを構築するために、メタルチオネイン遺伝子などに存在して重金属イオンに反応するMRE部分の塩基配列を合成したのち複数個連結したものを作成した。この発現調節部分を非常に弱いプロモーター活性を持つように改変したチミジンキナーゼ(TK)のプロモーターにつないだ。まずこの部分の下流にCAT遺伝子をつないで培養細胞にトランスフェクションした後のCAT発現レベルを検定したところ、培養液に添加した亜鉛イオンの濃度に忠実に比例して発現量が増加した。次に、この発現調節部分にSV40のT抗原遺伝子やN-myc遺伝子をつないだのちES細胞に導入して、がん遺伝子の発現レベルを制御可能な細胞株を得ようとした。共導入したG418耐性遺伝子により選別することによって、これまで30株以上の遺伝子導入細胞株を分離したのちがん遺伝子の発現を検定したが、思うように発現量を調節できる細胞株を得ることにはいまのところ成功していない。 一方、7〜8日令のマウス胚子から中枢神経系の原基を微細手術により切りだして初代培養系に移す方法を改良した。この場合は、比較的細胞数の少ない初代培養胚細胞への遺伝子導入を効率高く行なう手法を確立する必要があるので、このような高率の遺伝子導入方法を改良するために、レポーター遺伝子として優れている大腸菌lacZ遺伝子の発現ベクターを調製したのち、中枢神経系原基の初代培養細胞に対して、マイクロインジェクション法やリポゾーム法によって導入することを試みた。その際の様々な条件を選択することによって、lacZ発現細胞の出現効率を検討した。
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