本研究は、マウス胚由来未分化細胞(以下ES細胞)を用いてのジーンターゲティングにより、がん抑制遺伝子に変異を有する変異マウスを作成し、この変異マウすの発生過程や発癌過程を解析することにより、がん抑制遺伝子の生体内での機能とその発癌過程への関わりを明らかにしようという試みである。本年度はヒト大腸癌の発癌に関与すると考えられているがん抑制遺伝子APC遺伝子に変異を有する変異マウスの作成に成功したので、その経過について報告する。 本年度我々は、昨年度までに単離を終えていたマウスAPC遺伝子の解析を進め、試験管内で2種の変異APC遺伝子を作成作成した。1つは、第1エクソン内の変異であり、この変異はマウスAPC遺伝子産物の殆んどを欠損させる。もう1つは、第8エクソン内の変異であり、この変異はヒトGardner症候群の家系の1つで発見されたものと全く同一の形のものである。こうして作成した変異遺伝子を電気穿孔法によりEX細胞内に導入し、第1エクソン変異に関しては約700個、第8エクソン変異に関しては約400個のES細胞クローンを単離し解析を行なった結果、各々1個の変異ES細胞が得られた。次いでブラストシスト内注入法により、これらのAPC遺伝子に変異が導入されたES細胞からキメラマウスを作成し、さらにそのF1マウスを得て解析したところ、第8エクソンに変異を有するAPC変異マウスが樹立されたことが確認された。現在、この変異APCマウスでの大腸ポリープ発生の観察を続けると同時に、ヘテロ接合体のかけ合わせによりホモ接合体の作成を試みている。
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