発がんの様々な段階の宿主因子が環境との相互作用をとおしてどのように発がんに関与するのか、宿主防御を行なう免疫監視および発がん物質の代謝酵素の二つの宿主因子について検討した。 1.遺伝子に規定される発がん感受性と異なり、免疫的防御であるナチュラルキラー(NK)細胞は生活習慣の影響を大きく受ける。1988年までの地域コホート調査対象者2892名について90項目の生活習慣とNK活性の関連を断面的に検討した。NK活性は喫煙によって減少し、飲酒によって増大する。食生活では、緑色野菜と大豆製品・肉・乳・乳製品といった高タンパク食品がNK活性を高める。身体活動との関係は、一日平均3時間以下の定期的な労働がNK活性を最も高め、労働をしないあるいはそれ以上に労働してもNK活性は低くなる。不規則な食事をする人、睡眠が不規則な人のNK活性は、規則的な人々に比べて低かった。また肥満あるいは痩せといった適正体重からのずれもNK活性を低くする。NK活性を高める生活習慣は、飲酒を除き従来疫学的に知られている発がんリスクを低くする健康行動と一致しており、これらにNK細胞が関与していることを示した。 2.肺がん感受性の個体差をP4501A1酵素の遺伝子多型による患者喫煙量の違いによって検討した。すなわち、肺扁平上皮がん患者85人のリンパ球DNAから、CYP1A1の二つの遺伝子多型(Mspl多型とIle-Val多型)および活性代謝産物の解毒に関与するGST1酵素の多型に由来する遺伝子型を同定し、発がん物質の代謝における活性化と解毒のバランスに注目してCYP1A1とGST1の遺伝子型の組合せによって生涯累積喫煙量を検討した。その結果、患者の喫煙量の平均値と分布には遺伝子型による明かな違いが観察され、健常人集団と比べ患者での頻度が高い遺伝子型ほど少ない喫煙量で発がんしていることが分かった。
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