本研究では、まず台風9119号時を対象として、沖縄から近畿地方に至る沿岸部に設置された気圧計、風速計、潮位計および波高計による観測資料や被災資料および新聞記事などを200ヶ所以上の関係各機関から収集するとともに、被災報告や新聞記事に基づいて被災箇所の沿岸分布図を作成することにより、被災はとくに瀬戸内海沿岸部のほぼ全域に及ぶことを明らかにした。 ついで、風、気圧、潮位および波浪に関する資料解析や数値レミュレーションに基づく考察から以下の結果を得た。すなわち、風に関しては、観測風の平面補間によって九州から瀬戸内海に至る台風内の風分布の実態を再現するとともに、台風モデル法は、局所的な地形の影響を受ける一部の海域を除き、多くの観測点で観測風をよく再現することを見出した。高潮については、収集した潮位記録に基づいて、瀬戸内海における高潮偏差の時空間分布と最大高潮偏差の平面分布を求めるとともに、数値モデルによる高潮計算から、高潮偏差を再現するためには海面の抵抗係数を増大させた計算を行う必要があることを示した。また、過去40年の台風資料の解析に基づいて作成した確率的台風モデル、および台風特別と高潮偏差を関係づける重回帰式による、確率的台風・高潮偏差シミュレーション結果の極値統計解析から、松山における1000年確率の高潮偏差は既往最大値の1.3倍以上に達する可能性のあることを明らかにした。波浪については、格子点浅海モデルによる波浪追算を瀬戸内海西部海域において実施し、最大波高の海域・沿岸分布を推定するとともに、台風9119号は、山口・広島両県沿岸部から愛媛県島嶼部にかけて、過去50年間の巨大台風による既往最大波高を上回る異常波浪をもたらしたと推定されることを示した。
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