化学物質の催奇形性を評価する方法として、実験動物の器官形成期に薬剤を投与して胎児の奇形の有無を妊娠末期に調べる方法が広く用いられている。この方法は、現在考えうる最良のスクリーニング系となっているが、多数の実験動物、人手と経費を要することが難点である。また動物種間で化学物質の催奇形性が大きく異なる場合があり、ヒトでの催奇形性を充分予知できるとは言い難い点があった。我々はより簡単で、しかも試験結果が動物種の違いの影響を受けにくいスクリーニング系の構築を試みている。これまで発生過程が比較的単純で解明の進んでいる肢芽発生を対象として研究を進めてきた結果、ラット胎児肢芽の外胚葉頂堤上でのc-myc蛋白の発現パターンがスクリーニングの指標として有用であるとのデータを得ることができた。c-mycは指のパターンが形成される直前には軸後側基部に発現しているが、パターン形成が進行するにつれて発現部位も外胚葉頂堤上を広がり、ついには頂堤全体で発現するようになる。この肢芽外胚葉頂堤上でのc-mycの発現パターンは催奇形性物質の影響を非常に受けやすく、既知催奇形性物質のいくつかがc-mycの発現パターンに影響を与えることが分かった。本年度は催奇形性物質の数を増やして検出スペクトルについて検討した。方法はこれまでと同じく、薬剤を妊娠13日のWistarラットに投与して24時間後に胎児を摘出、肢芽上のc-mycを全載金コロイド染色法で免疫染色して共焦点レーザー顕微鏡で断層化することによった。その結果、クマリン、サリドマイド、メチル水銀等、16種類の既知の催奇形性物質について陽性の結果が得られた。しかし既知催奇形性物質のうちステロイド系薬剤であるデキサメタゾン、テストステロンについては陰性の結果となった。この検出スペクトルは、本スクリーニング系の有用性を示すものであるが、更に多数の化学物質について検討する必要があろう。
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