1998年冬季オリンピック開催に向けて急激に都市開発が行われつつある長野市において、レーザーモニタリングの手法を用いて大気環境観測を行った。観測には、都市化を人間活動の結果として捕え、その結果生じると考えられる大気中エアロゾルを観測することの可能な、ミー散乱レーザーレーダーシステムを構築して用いた。本システムは低高度観測用(高度10km以下)と高高度観測用(高度10km以上)の2つのシステムから成り立っている。 低高度観測は、長野市立松代中学校(長野市松代町)で行われた。レーザー散乱受信信号強度の高度依存性の結果より、約600m上空付近の混合層が捕えられた。これを境にエアロゾル濃度に顕著な差が見られることから、都市大気環境を理解する上で、混合層高度やその発達過程の時間変化等の観測が重要であることが示された。また24時間連続観測結果は、夕方から夜間あるいは早朝から明け方という時間帯にエアロゾル変動が激しくなること、混合層高度は日中には700m程度まで上昇し、夜間には100m以下まで下降すること等が明らかになった。これらのことより夜間においては鉛直方向への大気拡散現象が抑制され、高濃度エアロゾルや人為起源大気汚染物質の長時間滞留の可能性が明らかとなった。 高高度観測は、信州大学工学部内(長野市若里)で行われた。高度約18km付近に、ピナトゥボ火山噴火による高濃度エアロゾル層が観測された。同高度領域での積算後方散乱係数の月別変化を調べたところ、1992年7月から9月にかけて減少傾向にあったものが、11月に入り再び上昇傾向に転じ、火山噴化の影響がまだ継続していることが明らかとなった。このことは都市化とは直接的には関係がないものの、高濃度エアロゾルの大気環境下で人類が活動しているという点で、見逃すことのできない興味深い観測事実といえる。
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