研究概要 |
硫黄同位体比の測定法の関して、二次イオン質量分析計による測定を検討してきたが、比較標準試料をいろいろ変えることにより、測定の精度が異なることが判明した。本年度の研究で、海水硫酸塩から調製した硫化銀をペレット状にして比較標準試料としたところ、従来の同位体比測定用質量分析計による測定値ときわめてよい一致をみた。海水硫酸塩の硫黄同位体比(^<34>S/^<32>S)は既知であり、国際標準試料である米国アリゾナ州キャニオンダイアブロ隕石のトロイライトのそれに対する千分偏差δ^<34>Sパミル値は、20.5パミルとされている。 本研究では、主に環境生体試料として日本各地から集めたイチョウ・ツバキ・マツなどの木の葉について硫黄同位体比の測定を行い、これまでの研究による結果とあわせて環境中の硫黄の発生源について考察を行った。この中でツバキの葉を例にとると、新潟海岸・大島・鎌倉など海に近い地域ではそのδ^<34>S値が大きく、都心部ではδ^<34>S値が小さい傾向が顕著に現われていた。さらに、大島では火山活動の影響を受けて新潟海岸よりδ^<34>S値が小さく、鎌倉では近くの工業活動・交通による化石燃料燃焼生成物の影響を受け、大島よりさらに低いδ^<34>S値を示した。一般に海水硫酸塩のδ^<34>S値は高く、化石燃料に由来する硫黄のδ^<34>S値は低いことから、前者を自然起源,後者を人学起源の典型と考えれば、硫黄同位体比の測定からおおよその発生源および硫黄による環境汚染度の推定が可能と考えられる。これまでの研究における世界各地の食品およびヒトのツメの硫黄同位体比においても、これと全く同じ傾向がみられている。海の占める割合が大きい南半球においてδ^<34>S値は高く、陸の占める割合が多くさらに工業活業・交通量の多い北半球では低い値が観測された。今後さらにデータを集め、指標植物の選定・環境汚染度の数量化を試みる計画である。
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