超強定常磁場が哺乳動物細胞の増殖、細胞致死あるいは突然変異の誘発に影響を及ぼすか否か、さらに、放射線との複合作用の可能性についてヒト末梢血Tリンパ球を用いて検討した。 6.3T超伝導磁石のボア(径89mm)内に、通常の細胞培養条件と同等な温湿度、炭酸ガス濃度が設定可能な細胞培養チャンバーを作成した。ヒトTリンパ球は、健常人末梢血より比重遠沈法により分離し、T細胞増殖因子、FCS、刺激細胞等を添加したRPMI1640培養液に浮遊させ培養した。 1.細胞増殖及び遺伝的影響:末梢血より分離直後のPHA刺激培養下のT細胞は、6.3T定常磁場への連続3日間の曝露で、細胞増殖率が対照培養細胞の約60%に抑制された。しかし、対数増殖期のT細胞では、3日間の曝露でも対照培養の80〜90%の増殖率せ示し、細胞増殖に及ぼす磁場効果は微弱であった。また、6.3T定常磁場への連続3日間の曝露でも、6チオグアニン抵抗性を遺伝的マーカーとした突然変異率に影響を及ぼさなかった。これらの磁場効果は、4T定常磁場でも同様であったが、2Tでは有意な効果は認められなかった。 2.放射線との複合作用:20〜24時間6.3T定常磁場に曝露されたT細胞の250kVpX線に対するD_<37>値は1.3Gyで、対照群の1.9Gyに比し高感受性を示した。また、4Gyの線量を2回分割照射(2+2Gy)による亜致死障害の修復は、4時間の時間間隔で照射した場合、T細胞の生存確率は1回照射に比し2倍高くなる。この回復時間中の細胞を6.3T磁場に曝露すると、その回復比は対照群の約75%に抑制された。 4〜6.3Tの超強磁場の生物学的効果は、器質的変化を伴う不可逆的反応ではなく、細胞膜等の生体高分子の磁場配向が刺激となって細胞代謝や酵素活性の一過性的な阻害など機能的変化によるものと考えられる。
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