研究概要 |
微結晶セルロースの真空熱分解によって得られた1,6-アンヒドロ-β-D-グルコピラノースを出発原料として、臭化ベンジルと酸化バリウムにより選択的にC-2位とC-4位の水酸基をベンジル化し、C-3位の水酸基をベンゾイル化することによって重合可能なモノマーを合成した。得られたモノマーを高真空下、塩化メチレン中、低温で五フッ化リンを開始剤として開環重合すると、立体規則性の(1→6)-α-D-グルコピラナン誘導体が得られた。脱ベンゾイル化、イミデート法によるグルコシル化、脱ベンジル化されたポリマーは、グルコースの枝を有する分枝グルカンである。通常のグリコシル化反応はα又はβアノマーの一方を90%以上与えれば立体選択性の非常によい反応と言える。これに対して、ポリマー上へのグリコシル化反応では、生成する各アノマーが同一ポリマー鎖上に存在するため分離することができなく、100%の選択性が要求される。本研究では、セルラーゼを用いることにより、不必要な方のβ-アノマーを加水分解することによりα-グルコースの枝みのを有する分枝グルカンを得た。本研究では、加水分解酵素により、化学合成の足りない部分を補うという点に特徴がある。合成した分枝多糖をマウスの腹腔内に投与することにより血糖値の降下が観察された。これに対して、枝のない直鎖状グルカンや、マンノースの枝を有するグルカンでは血糖値の降下は見られなかった。グルコース枝の含量によって活性が異なり、中程度の分枝度のものが最も高い活性を示した。また、ストレプトゾトシン投与により作製したI型糖尿病マウスには効果がなく、合成分枝多糖による血糖降下にはインスリンが関与していることがわかった。さらに、ゴールデンハムスターから取り出したラ氏島を合成パナキサンの存在下で培養することにより、インスリンの放出を確認した。現在、蛍光ラベルした分枝多糖を用いて、インスリンの放出機構を検討中である。
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