1.ゾーンレベリング法を適用したS-rich原料を用いたブリッジマン法により結晶成長を行った。溶融の後、徐冷すると針状試料を得ることができた。一方、急冷で成長を試みたところ、針状試料と異なり新たに板状のtlS単結晶を得た。X線構造解析から、針状結晶は従来から報告されきた鎖状ー次元構造の正方晶をとるTlSe構造であるが、板状結晶は単斜晶系TlGaSe、構造をとる新しい結晶であることが判明した。 2.逐次誘電的相転移の発生。 TlGaSe結晶で見いだされた逐次誘電的相転移と類似の相転移をこの硫化タリウムで発見した。比熱や誘電率測定を行い熱力学的データの蓄積も行った。明かにした点は、次の三点である。(A)室温相は強誘電相であり、Tl^<1+>のab面内での微小変位を伴うC-軸に沿う4倍周期構造が出現する。(B)318.6Kから341.1Kまでの温度領域では、非整合相が中間相として現れ、ドメイン構造が実現する。(C)341.1K以上の高温相は、常誘電相で単斜晶系に属する。この整合ー非整合転移を含む逐次転移は、対称性から要求されるリフシッツ項やロックイン項を含むランダウ型自由エネルギーの孝察から整理できる。Tl^<1+>の微小変位がこの格子不安定の鍵を握るわけであるが、電子論的孝察やソフトモードなどダイナミカルな側面の問題は、これからの課題である。 3.光伝導特性 TlS化合物は、古くから光伝導材料として知られている。今回は板状試料を用いて、電気伝導度、光伝導度、光伝導スペクトルの測定を試みた。光伝導度の大きさは、10^<-7>〜10^<-8>Ω^<-1>cm^<-1>程度でカルコゲンガラスのそれとほぼ同じオーダーである。スペクトルのピーク値は、11000Å(1.13eV)にあり、バンドギャップがこのエネルギー近傍にあることを示唆する。又、スペクトルの温度変化と相転移との相関を明らかにした。
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