研究概要 |
一次元ハロゲン架橋混合原子価錯体は大きな非線形光学効果、ソリトンやポーラロンに基づく物性、金属ー絶縁体転移、非常に強い電子ー格子相互作用に基づく高次の共鳴ラマン、発光など独特の物性を示すことから近年、一次元電子系の典型物質としての基礎研究や新しい光学、電子素子への応用へ向けての研究が盛んに行われている。これらのバンドギャップは一般の半導体のような構成成分の電子準位のエネルギー差によるものではなく格子歪や電子間反発により1個のバンドが分裂して出来たものである。これらの構成要素(M,X,L,Y)を様々に組合せることによりそのバンドギャップを紫外から赤外領域まで変えることができる。更に鎖間相互作用も制御することができる。本研究では鎖間相互作用の違いを利用してソリトンやポーラロンの出現を制御することにより新しい物性や機能性の発現を目指すものである。 鎖間相互作用の違う2種類の化合物の光誘起吸収スペクトルと光伝導の測定により研究を行った。カウンターイオンとしてC10_4^-をもつ化合物では鎖間相互作用がないため鎖間でのPt^<2+>とPt^<4+>の位相は自由である。この化合物ではソリトンとポーラロンの両方が観測された。一方、カウンターイオンとしてハロゲン(X)をもつ化合物では鎖間が非常に強い水素結合で二次元的につながれており、鎖間でPt^<2+>どうしまたはPt^<4+>どうしが同じ位相で並んでいる。この化合物ではポーラロンしか観測されなかった。ポーラロンは一次元鎖中の欠陥により生じるため両者において観測されたものである。一方、ソリトンは異なる位相の境界において生じるが、前者の化合物では鎖間の相互作用がないため容易に生じ、後者の化合物では鎖間が同じ位相で二次元的に並んでいるためソリトンが生じなかったものと考えられる。このように、鎖間相互作用の違いによりソリトンの生成を制御することに成功した。
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