研究概要 |
極性の大きい発色団を含む両親媒性化合物と,長鎖脂肪酸などを交互に累積した非対称LB膜では,焦電性,圧電性,および光学的非線形性などが期待できる。本研究では,分子軸方向に大きい極性をもつドデシルオキシフェニルビラジンカルボン酸(DOPC)と重水素化ステアリン酸の交互累積膜,ならびにそれらのBa塩の交互累積膜を作製して,膜中の分子配向の温度変化を,赤外透過および反射吸収スペクトルから,我々が先に提案した方法によって定量的に評価するとともに,膜の焦電流を精密に測定し,両者の相関性を検討してきた。本年度は主として,我々が先に見い出した,40℃以上での加熱によって起る正電流の急速な増加の原因を確かめるため,両方の交互累積膜について,上記の温度範囲でのCH伸縮振動領域の非共鳴ラマンスベクトル変化を,高感度電荷結合型(CCD)検知器で測定した。2880および2850cm^<-1>に現われるCH_2逆対称および対称伸縮振動バンドの強度は,温度の上昇とともに大きく減少する。一方,両バンドの強度比1(2880)/1(2850)は炭素鎖の規則性の敏感な尺度であって,炭素鎖が全トランス型の規則構造から溶融状態の不規則構造まで変化する時,強度比は1.5から0.7まで減少することが知られている。そこで,上に述べた測定結果から,この強度比の温度変化を求めたところ,二つの交互累積膜について,40℃までは約1.22の一定値を示し,40℃以上で急速に低下しはじめ,約100℃で1.03に達することがわかった。これらのことから,両交互膜中のDOPC(またはそのBa塩)は,40℃以下ではわずかな割合のゴーシュ構造を含むやや不規則な状態にあるが,40℃以上では温度とともに,より不規則性を増すことがわかった.このことは,40℃以上での温度上昇による正電流の急速な増加は,炭素鎖の規則性の乱れによる脱分極に起因するものと結論できる。このことは赤外分光法による分子配向の定量評価からも確かめられた。
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