研究概要 |
ある組成と構造を与えたとき,合金がどのような物性を示すかを電子状態の計算によって予測すること,またそれを用いて高機能材料として合金を開発する手法を確立することが本研究の目的である。そのような方向に沿って,単年度ずつ3年にわたって研究を進めてたが,複雑な系に対する第一原理からの物性予測という点で成果を上げることができた。以下,当該年度の成果の内からとして,i)不純物原子周辺の構造最適化,ii)窒化鉄の磁性,iii)クロムのスピン密度波状態,おのおのについて報告する。 i)金属の格子間位置に入った不純物原子は,物性の発現機構に強く関与することが多い,hcp金属の格子間位置に入ったLi,B,Nなどは不純物原子核のみる電場勾配や周りの母体原子におよぼす格子歪などが核物理の手法を用いて調べられている。そのような実験を念頭にMgやZn中の軽い不純物核の電子状態の計算を周辺の構造緩和を最適化しつつ行った。Mg中のLi,B,Nはtrigonal位置の一つに入ること,周辺の格子を15%程度押し広げることなどを結論した。また,構造最適化とKKR法による電子状態の計算を同時に行う手法を確立した。 ii)窒化鉄は新しい永久磁石材料として注目されている。様々な組成と構造を持つ窒化鉄(Fe_4N,Fe_6N,Fe_8N,Fe_<16>N_2,Y_2Fe_<17>N_3)について,電子状態の計算を進めた。単に磁性材料としてだけではなく,電子相関の強い系としてのとらえかたが必要であることを指摘した。 iii)クロムは基底状態でスピン密度波状態(SDW)が実現している。SDWの安定性を第一原理から議論することは長周期構造の問題としても重要である。前年度はタイトバインディング模型を使ってSDWを議論したが,今年度,あらたにSDWの長周期に対応できるLMTOプログラムを開発した。現在,第一原理に基づいた信頼性の高い計算を行っている。
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