本研究は、最終氷期以降の北西太平洋における海洋環境の変遷を明らかにすることを目的として、日本列島周辺の海底コアに含まれる有孔虫化石の酸素同位体比(^<18>O/^<16>O)測定から海流系の変化を追跡し、同時に日本列島各地の浅海堆積層に含まれる貝化石群集の解析から沿岸の環境変化を復元した。 本年度は、釧路沖の海底コア(長さ4.3m)、襟裳岬沖(4.7m)、房総半島沖(11.1m)、高知沖(7.8m)、青が島東方(12m)、対馬海盆(17.6m)、隠岐堆(150m)の合計7本について調査した。その結果、 1.釧路沖および襟裳岬沖は、過去2万年間、親潮およびその続流の影響下にあった。 2.房総半島沖から高知沖にかけての海洋環境は、約3万年前から1.5万年前にかけて現在の三陸沖の同様に、黒潮と親潮の混合水塊で占められていた。また、その下層には親潮潜流が流れていた。 3.青ヶ島東方のコアが示す酸素同位体比カーブは、深海底コアの標準的なそれと酷似しており、現在と類似した海洋環境が過去15万年の間継続していた。 4.対馬海盆および隠岐堆のコアの酸素同位体比カーブは、対馬海峡の水深が現在の値とあまり変わらない状態が過去少なくとも50万年間続いたことを示唆する。 5.日本海沿岸の貝化石群集は、7000〜4500年前の縄文海進時に温暖種の北方への進出が顕著であったことを示す。当時の貝化石の分布範囲を現生種のそれと比較すると、縄文海進時は対馬暖流の勢が強く、特に冬の表面水温が高かったことが示される。
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