研究概要 |
世界の高pH砂漠土壌において,鉄欠乏は植物生育の主要な制限要因となっている。土壌中の不溶態の鉄を可溶化して吸収するイネ科植物の有するStrategy-IIのメカニズムは,ムギネ酸の放出という現象の発見から解明されてきた。本グループは,鉄欠乏条件下でのムギネ酸の合成,分泌,土壌中の鉄の溶解,ムギネ酸一鉄の植物根による吸収,という一連の生理生化学現象を遺伝子レベルで解明し,ムギネ酸生合成遺伝子をクローニングし,この一連の遺伝子を導入したトランスジエニック植物の創成を目的としている。現在迄のところ以下の事項が明らかになった。 (1)ニコチアナミン合成酵素を二次元電気泳動上複数のスポットにまで精製した。本酵素はM.W.5000のホモダイマーと思われる。 (2)ニコチアナミンデアミナーゼの諸性質を明らかにした。本酵素はPLPをコファクターとしα・Kg依存性で至適PH90である。 (3)ニコチアナミン合成酵素およびニコチアナミンデアミナーゼともにムギネ酸の放出活性が高まるより2〜3日前から,その活性が鉄欠乏大麦根内において高まる。 (4)鉄欠乏大麦根と鉄処理大麦根からそれぞれ採ったmRNA間でデファレンシャルスクリーニングを行った。鉄欠乏で特異的に発現するクローンを7つ撰抜き、そのうち4つのDNAの塩基配列を行なった(これらをIds1,Ids3,Ids4と名づけた)。そのうちIds1はメタロチオネイン遺伝子であり,Ids2とIds3はdioygenaseであった。Ids4は全くの未知蛋白であった。Ids1とIds2,3にはゲノミックDNAの上流にMRE(metel responsiue element)が含まれており,Ids2,3にはCUP1上流に含まれるCu(銅)制御領域が含まれていた。鉄欠乏により間接的に高濃度集積 したCuの過剰症に対処するために発現した遺伝子群と思われる。
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