研究概要 |
補足的ではある、今年度も昨年度に引きつづいて、次の地点から試料を得た。南西諸島:沖縄県名蔵ダム40m,中国・四国:東広島市西条盆地湖成層60点・岡山市浦安138m・兵庫県銚子ヶ谷湿原2.6m・徳島市丈六団地横の湿地7.8m,近畿:滋賀県山門湿原7.7m.今年度の研究の重点は、入手した試料をできるだけたくさん分析・測定することであった。その主要な分析結果は、次の通りである。伊是名島(沖縄県):最終氷期最盛期には、マツ属とマキ属が優占するが、アカガシ亜属とシイノキ属も全層にわたって数%から最高9%まで出現し、照葉樹林がかなり残存していたことを示している。遠賀川下流域(福岡県):深度23〜30mにマツ属・モミ属の裸子植物とコナラ亜属・ブナ属などの落葉広葉樹と共にサルスベリ属が大量(最高65%)に出現している。この時期を最終間氷期とみなすかどうかの今後の議論にとって、貴重なデータとなる。山門湿原(滋賀県):約3万年前以降のほぼ連続した植生変遷史がみられる。最終氷期最盛期以前は湿潤・冷凉,同最盛期〜晩氷期は乾燥・寒冷,後氷期は湿潤・冷凉〜温和でスギ属が圧倒的に優占する日本海側の特徴を示し、照葉樹林の顕著な拡大はみられない。この他、縄文海進期における照葉樹林の頻度・組成・分布および後氷期における照葉樹林の拡大時期についての文献調査に基づく考察も試みた。そのうち、出現頻度についての要点のみ記すと次の通りである。照葉樹林の全樹木花粉に対する出現頻度は、琉球列島と九州では照葉樹林が75%を占め、太平洋側の四国・瀬戸内・近畿では50〜75%が多く、中部から関東までは30〜35%まで減少する。東北地方では10%以下が3地点確認されているだけである。本州の日本海側は、宍道湖と三方湖しかないが、いずれも30〜50%である。
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