研究課題
今年度は、地球環境問題を、西洋哲学・東洋哲学・上部構造・下部構造の4側面から検討した。まず、最近の西洋哲学の「自己組織系」の考え方を用いて、環境概念を検討した。自己組織系とは、人間から働きかけがなくても、自分自身の力によって成長し、自分自身を変化させてゆくようなシステムのことである。この立場によれは、安定的平衝的環境概念は否定されるべきものとなる。次に、中国の伝統的思想のひとつである朱子学が、環境問題をどのようにとらえるかを考察した。朱子学では、世界=環境を「死せる機械」とはとらえずに、「生命現像で満ちあふれた時空」として考える。これを「生生する時空」と呼ぶ。その生命あふれる時空の中で、人間がどのように行為してゆけばよいかが、朱子の倫理学の基本的な問いになる。上部構造の問いとしては、今日の地球環境問題で議論されている。「近代」の問題がある。すなわち、「近代」が産み出した地球環境問題を、同じ近代の原理で解決することが可能か、それとも「近代」を超えるあらたな文明の創造が必要なのかという問題である。この点をめぐって「近代派」と「脱-近代派」の2つの思想が対立していることが明確になった。地球環境問題が国際政治のイッシューとなった背景には、冷戦構造の解体にともなう、新たな国際的な「不安」の創出というメカニズムが働いている。それら国際政治の枠組みの変化に対応して、地球環境問題が1980年代以降、議論されてきたという、科学史的事実が解明された。
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