金属ポルフィリン錯体のアキシアル位は非環状の配位子を有する金属錯体に比べて著しく置換活性化されている。本研究ではこの原因を明らかにするために速度論的手法を用いて、トルエン中におけるクロム(III)ポルフィリン錯体の配位子置換反応を研究した。特に、レーザーフォトリシスを用いて、反応の過程で生ずる反応活性種や反応中間体を直接観測して、その性質を明らかにすることを目的とした。 1.メチルイミダゾールによるクロム(III)ポルフィリン錯体のアキシアル位の配位子置換反応の平衡および速度を分光光度法により測定し、反応速度式より解離機構により反応が進行することを明らかにした。配位子の脱離する速度定数と平衡定数との間に見られる相関はこれ過程の遷移状態のエネルギーが配位子に依存せず一定であることを示しており、反応機構が解離機構であることを支持する。また、ここで仮定された反応中間体が極めて反応活性であることが示唆された。6配位のクロム(III)ポルフィリン錯体の溶液をレーザーで照射すると容易にアキシアル位の配位子が脱離する。レーザー照射後、2段階の反応が観測された。速い過程に対応するスペクトル変化は300ns以内に終了し、中間体を与える。その後、遅い過程により、最終的に最初の錯体に戻る。両者の減衰の過程の速度式により、速い過程が配位子置換反応において仮定された反応中間体の生成に対応し、遅い過程が中間体から6配位錯体への反応に対応することを明らかにした。また、その速度論的パラメーターに基づいてその反応機構を考察した。
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