研究概要 |
細胞膜を横切る電解質の動きは、興奮、分泌、吸収、運動などの細胞の生理機能の基本と考えられる。しかし、細胞質内Na^+,K^+の動的挙動の情報はほとんどない。我々は、細胞内^<23>Naイオンの緩和を二量子フィルターNMR法により測定し、細胞内^<23>Na^+イオンが遅い運動状態にある(ωτ_c〉〉1、相関時間(correlation time τ_c)、ラーモア周波数(ω))ことを見いだした。次の問題は、細胞内液における^<23>Na核の緩和機構の解析である。本年度は、パルス勾配磁場NMR法を用い、^<23>^+イオンの自己拡散係数を測定し、この値より速い運動状態にある^<23>Na^+イオンの横緩和速度定数を推定する方法を開発した。寒天ゲルを細胞内液モデルとして用い、^<23>Na^+イオンの横緩和速度定数の磁場依存性を種々の寒天濃度で測定し、exchange modelの仮定のもとに遅い状態にある^<23>Naイオン^+イオンの相関時間と四重極結合定数を推定した。本年度は二量子フィルターNMR法における位相管理を精度良く行うために広帯域のデジタルフェイズシフタを設置した。 細胞内液にて、遅い運動状態のNa^+とextreme narrowingの速い運動状態のNa^+が交換すると仮定した。観測される拡散係数Dは、厳密にはD_<free>とD_bの時間平均と考えられる。しかし、観測される値は、D_bとP_bの値がD_<free>や1-P_bに比ベかなり小さいために、実質的にはD_<free>にほぼ等しい。すなわち、観測される寒天ゲル中に^<23>Na^+の拡散係数は、extreme narrowingに速い運動状態の^<23>Na^+の動きを表す。一方、^<23>Na^+の緩和速度定数は溶液の粘度に強く依存する。glycerol/水の溶液系の^<23>Na^+の自己拡散係数を種々の粘度のもとで測定し、自己拡散係数と緩和時間の関係を求めた。この関係を用い、種々の濃度の寒天ゲル中のextreme narrowing状態の^<23>Na^+の緩和速度定数S_<free>を求めた。最適化により得られた結果、遅い運動状態にある^<23>Na^+の比率P_b(1%寒天、1M NaC1)は、9*10-4と計算された。四極子結合定数e^2qQ/hおよび相関時間の値は、1MHz、16nsecと推定された。測定値はr^2=0.98とよくモデルにフィットした。e^2qQ/hは1MHzと推定され、予測範囲(0.2MHz-2MHz)に入った。これらの結果は、寒天モデルの交換モデルとしての有効性を支持している。現在、本手法を単純な系から生体系に導入するための基礎実験を行っている。
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