研究概要 |
ビニル位炭素原子上での求核置換反応は、多くの場合立体保持で進行するが、立体化学の反転を伴う求核置換反応、即ち、ビニル位炭素原子上でのS_N2型反応は知られていない。我々は、ビニルヨードニウム塩のハロゲン化アンモニウムによる求核置換反応が、立体化学の反転を伴って進行することを見出した。アルキル置換基を持つE-ビニルヨードニウム塩にn-Bu_4を作用させると、求核置換反応が進行して、Z-塩化ビニルが高収率で生成する。反応は脱離反応と競争的であり、末端アルキンも小量得られる。n-Bu_4NBrやn-Bu_4NIを作用させた場合にも、Z-臭化ビニル及びZ-ヨウ化ビニルが収率良く得られる。とこをがn-Bu_4NFとの反応ではもっぱら脱離反応が進行する。従来のビニル位炭素原子上での求核置換反応とは全く異なり,何れの反応においても立体配置は完全に反転し、E体の生成が見られない。重水素化したビニルヨードニウム塩の反応及びから、次のような反応機構を考えている。n-Bu_4NFとの反応では、フッ素アニオンは直接ビニルヨードニウム塩のα位水素を攻撃してα-脱離を引き起こし、末端アルキンを生じる。一方、n-Bu_4NX(X=Cl,Br,I)との反応では、まず配位子交換が起こり、その後分子内syn型β-脱離により末端アルキンを生成する。アルケニル基がapical位を占める中間体のCviny-Iσ*軌道にもう一分子のn-Bu_4NXが求核的に攻撃し、S_N2型遷移状態を経て立務配置の反転が起こり、Z-ハロゲン化ビニルが生成する。上記反応機構のなかで重要なことは、ビニル位炭素原子上での求核置換反応において、全く前例の無い、立体化学の反転を伴うS_N2型反応を考えていることである。ビニル位炭素原子とヨウ絵原子との結合が、反応性の高い超原子価結合であること、及び、3価ヨウ素置換基の超脱離能が、ビニル位炭素原子上でのS_N2型求核置換反応を可能にしている原因であると考えられる。
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