本研究では、極めて多幼性に富む酸化酵素・チトクロムP-450の活性中心であるポルフィリン錯体の機能を再現すべく、ポルフィリン錯体と電子的及び構造的に類似した光学活性なサレン錯体あるいはテトラアザ錯体を用いてオレフィン類の酸化反応の検討を行ない、1)生体内の反応と同様に効率的な酸素酸化反応の開発、および2)高エナンチオ選択的エポキシ化反応を開発することができた。 1.P-450のモデル錯体による酸素酸化反応の開発 ポルフィリン錯体のモデル化合物について検討を行ったところ、ポルフィリンと等電子構造を持つテトラアザニッケル錯体がアルデヒドの存在下、分子状酸素(向山の条件)によるエポキシ化を円滑に触媒することを見いだした。ただこの反応ではシス-オレフィンからシス-およびトランス-エポキシドが得られること、またスチレン誘導体の酸化では少量だがベンズアルデヒドが生成することなどからラジカル機構の関与が示唆された。そこでこの反応の機構について詳細に検討を行なったところ、アシルペルオキシラジカルが活性種として関与することを明らかにすることができた。 2.オキソ錯体に接近する基質の配向の研究 P-450による酸化では活性部位のポルフィリン錯体がオキソ体に酸化され、その後基質の酸化を行なうことが明らかにされている。しかしオレフィンの酸化では、どの方向からオレフィンがオキソ体に接近するかが末だ明らかにされていない。そこで数多くの光学活性な(サレン)マンガン錯体を合成し、エポキシ化の立体化学を検討したとこむろ、シス-オレフィンではサレン錯体の面に沿って、またトランス-オレフィンでは斜上の方向からオキソ体に接近することが推測された。この仮説に基づいて新規サレン錯体を合成し、高エナンチオ選択的エポキシ化(最高96%ee)を達成することができた。
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