研究概要 |
エピタキシアル成長した磁性人工格子が作られるようになって,多くの興味ある現象が明らかになった。BAIBICHからは,Fe/Cr多層膜について,10KOeの磁場をかけることによって50%に及ぶ負の巨大なマグネトレジスタンスを観測した。その基礎的な物性物理の機構の解明とこの現象の応用に対して大きな期待が持たれている。我々はマグネトレジスタンスと合わせて,マグネトサーモパウワー(磁気熱電能)を液体ヘリウム温度領域から室温に至る温度範囲で,磁場をかけながら測定した。磁気熱電能の測定を行なったのは,磁性人工格子に対しては我々の測定が最初であった。磁気熱電能の挙動はマグネトレジスタンスの挙動と対応がよく,熱電能からも巨大マグネトレジスタンスを裏付けるものとなったが,これに加えて,磁気熱電能の符号に関しても新らしい情報を得ることができた。これは負であり,現在の理論の枠内ではまだ充分に説明が行なわれていない。更に新らしい理論解釈の必要があることになった。又,電気抵抗の温度変化を精密に測定したところT^2に比例する項を見付けた。純磁性金属でもT^2項が観測されているが,多層膜におけるT^2はこれよりも一桁も大きなものであった。これは多層膜の膜面において伝導電子が散乱される機構を直接に証明したことになると考えている。今迄扱った試料はFe/Cr,Co/Cu,Au/Co/Au/FeCoの三種のみであるので,より多種の磁性多層膜層において同様の実験を繰り返し,更に一般的な視点を明らかにするのが今後の課題である。
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