昨年度はγ-Fe-MgOの複合膜の磁性を測定し弱い強磁性を確認し、それがγ-Fe微結晶の周辺部の格子が拡張しているためであることを推論した。本年度はこのγ-Fe微結晶とマトリックスMgOの界面の構造を、当研究者が自ら開発したTEMによる+1回線を用いて異なった方向から観察し、その歪状態を研究した。 また、別の材料にはさまれたγ-Fe試料としてCu/γ-Fe/Cu人工多層膜を超高真空チャンバーの中で作製を試み、その成長機構とRHEEDとTEMで同時観察する研究を行なった。特にRHEEDとTEMによるγ-Fe層の検出限界の決定、膜厚によるγ-Fe→α-Fe相変態の研究、Nacl基板上に作製したCu/Fe/Cuの多層膜の成長過程の研究に有用なデータを得た。この研究の過程でγ-Feの成長に用いるCu蒸首膜基板の成長にRHEED電子線が著しく影響することを新しく見い出した。Nacl(001)面を電流密度1MA/mm^2のRHEED電子線で照射すると、基板温度が180℃以下の時はNacl表面近傍にカラーセンターが生成し、180℃以上の時はNaclの昇華により電子球の方向にステップが生成する。またCu蒸首中にのみ電子線照射と行なった実験から、単結晶性のよいCu蒸首膜を生成するためには、Nacl上にカラーセンターやステップと作るよりも蒸首中に電子線照射をすることが有動であることがわかった。この単結晶性のよいCuの蒸首膜上のγ-Feの成長については、RHEED電子線の照射効果は顕著には観察されなかった。 これらの効果を十分考慮して単結晶性のよりCu蒸首膜上の種々の温度におけるγ-Feの臨界膜厚を測定した。その結果室温から100℃までは15A以下、180℃では60-75A程度であることがわかった。
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