磁性人工格子膜の垂直磁気異方性の起源の一つにひずみ誘導異方性が考えられている。われわれは、今までに磁高真空蒸着法で磁性層に加わる応力を成膜中にその場測定し、ひずみ誘導異方性の垂直磁気異方性への寄与について議論してきた。本年度はスパッタ法で作製する磁性人工格子膜の磁性層と非磁性層それぞれに加わる応力をその場測定した。 膜内の応力は、短冊状の基板の片側を固定しもう一方の自由端の変位を成膜中に測定することにより多層膜各層に加わる応力を測定した。スパッタ法ではプラズマ発生のための高周波電界の影響をなくすため光を用いて変位を測定した。 Ar圧10mTorrでガラス基板上にCo(4Å)とPd(30Å)を周期的に積層した多層膜では、積層周期が1周期目から20周期目程度までは、Pd層上のCo原子には圧縮応力が加わった。一方積層周期が20周期以上になるとCo原子は圧縮応力から引っ張り応力へと変化した。この現象はガラス基板上への成膜初期過程と膜厚が増加した後の成膜過程が異なることが予想できる。また成膜条件や下地層によっても膜内の応力の変化が異なった。このような応力の発生を成膜中にその場観察することは、人工格子界面の構造の理解や磁気異方性を解釈するうえで有用である。 本研究で求められた膜内部の応力と磁気異方性との関連を定量的に把握することが今後の課題である。
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