ブルー銅蛋白、チトクロームCとビピリジンルテニウム錯体間、および亜鉛置換ミオグロビンとそのモデル系としてのポルフィリンの亜鉛およびマグネシウム錯体とキノン系電子受容体の間のレーザ光誘起電子移動反応をパルスおよびCW-時間分解EPR法によって検討した。ブルー銅蛋白とチトクロームCの系ではEPR法で観測するための条件の設定で遭遇した困難の解決に時間を費やし、研究は今後も継続されるが、亜鉛置換ミオグロビンとZnTPP、ZnOEPの系で極めて有意義な結果がえられた。特に自作のパルスEPR分光器を更に改良しFT-EPRとして機能するようにした結果、予想を上回る貴重な情報がえられた。これらを要約すると 1.CW一時間分解EPR法ではレーザー光誘起による電子移動反応により生ずるポルフィ0リンカチオン、キノンアニオンラジカルとその前駆体であるポルフィリンカチオンーキノンアニオンラジカル対がそれぞれ独立に観測され、それらの生成、消滅過程に対する温度、ポルフィリンの軸配位子に対応する窒素塩基、無機塩の効果、中心金属の効果などの解析をとおして反応過程の詳細を明かにすることが出来た。 2.CW一時間分解法では、スペクトルの観測はスピンに異常分極が存在する間に限られる。これに対しFT-EPR法では常磁性分子種が存在する限りスペクトルの観測は可能で、CW法では観測が100nsから数10μsに限られたのに対し、FT-EPRでは約10nsから数100μsにわたり観測が可能でこれにより反応速度定数の決定が可能となりこれに影響する諸因子を検討することができた。 3.亜鉛ミオグロビンの系では反応速度定数が遅く、CW法では反応の観測が極めて困難であったが、FT-EPR法での観測に成功し、反応過程を検討することができた。
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