トリアリールホスフィンを配位子とする金(I)ニトラト錯体とグアノシン、アデノシン、シチジンなどの核酸塩基との反応から、これらが1分子配位した新しい金(I)錯体を単離した。これらの錯体は溶液中で遊離の核酸塩基と速い交換反応を起こしており、その機構はダイナミックNMRシミュレーションにより会合的機構であることが明らかとなった。この反応ではトリアリールホスフィンのオルト位に置換基を有すると交換速度が遅くなることがわかった。この系に二つの核酸塩基を同時に存在させ、金に対する相対的配位力について検討した。NMRの化学シフトからその平衡定数を算出したところ、核酸塩基の金に対する配位力はシチジン、グアノシン、アデノシン、チミジンの順であり、シスプラチンの場合とは異なることがわかった。これらの反応における△G、△Hおよび△Sとトリアリールホスフィンのコーンアングル(立体的要因)および置換基のO^*(電子的要因)との間にはほとんど相関がなかったが、反応の△HとT△Sとの間には強い補償効果が観測された。また、これらヌクレオシドとリン酸基を有するヌクレオチドとの熱力学的配位力の違いを検討したところ、ほとんどなくリン酸基が反応に関与していないものと考えられた。既ち、核酸塩基の金に対する配位は塩基部分の特定の位置であるものと推定される。 また、これらの錯体の水への溶解性は薬剤として利用するときには非常に重要である。そこで、これらの錯体の水溶性を増加させるためにトリス(アミノエチル)ホスフィンやトリス(ヒドロキンメチル)ホスフィンを用いることにより、類似の金(I)錯体を合成した。
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