研究概要 |
核酸の多彩な機能発現の影にはそれを支える立体構造と原子間相互作用が存在する。モノヌクレオチドと天然のDNAを取り上げ、単結晶を作成してラマンスペクトルを測定し、ラマンテンソルの大きさと方向を推定する事により、構造推測の一手法を発展させた。ラマンテンソルの独立要素は各振動バンドに対して主値α_<xx>、α_<yy>、α_<zz>とオイラー角θ、φ、χの六つとなるが、絶対強度は得難いので比をとって五つとなる。針状及び板状結晶ではデータ数が不足するので、ヌクレオチド水溶液の主要バンドの偏光解消度ρのデータを整備した。5′-GMP、CMP、AMP、UMP、5′-dTMP、dAMPおよびATPの計七種について行った。次にATP、AMP単結晶の偏光ラマンを測定し、bb,cc成分の値とρの値を用いて、主だったバンドのr_1・r_2とその方向を推定した。AMPについては、結晶構造のデータが無いので定量的解析には至っていない。さらに、DNA A形・B形配向結晶の顕微ラマンを測定し、ラマンテンソルを推定した。仔牛の胸線から抽出したDNAのゲルをおし伸ばして繊維状とし、その配向性を確認後、ペルチエ素子で電子冷却しながら測定した。DNA繊維のラマンスペクトルは、488nmを励起光とし、bb,cc,bc,cb成分のものを得た。A繊維の807cm^<-1>、B繊維の835と796cm^<-1>のPO単結合伸縮振動バンドはcc成分がきわめて強いことがわかった。A・B両形の塩基面内振動について、強度比I_<bb>/I_<cc>、I_<bb>/I_<bc>とρの値から、ラマン散乱テンソルのr_1・r_2の値を推定した。PO_2~基の対称伸縮振動については、PO_2~面内の変化であるが、ラマンテンソルは面外成分の方が大きいという奇妙な結果が得られた。このことはA・B両形だけでなくZ形にも認められた。又A形では主鎖構造が一定しているが、B形ではI_<bb>/I_<bc>の値が説明できず、既知の平均構造からかなり乱れていることが推測された。
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