この研究は、酸化物単結晶の融液からの成長機構及び、結晶欠陥発生に与える界面付傍での物質輸送の影響を原子レベルで明らかにすることを目的として行われた。平成4年度は、融液対流抑制の効果をより明確化するため、完全に融液対流が抑制されたガラス内部での単結晶成長に着目し、結晶成長に与える原子拡散の効果を検討した。容易にガラス化し、融液からの結晶成長とガラスからの結晶成長を相互に比較可能なほう酸リチウムを標準試料として選び、高温試料台を備えた顕微鏡を使って、結晶成長過程をVTRに録画した。得られた画像から成長形への原子拡散の効果についての解析を行った。 結晶成長への原子拡散の効果を明確にするため、種々の組成を持つほう酸リチウムガラスを試料として用い、単結晶成長界面近傍にLiあるいはBの過飽和層を形成しやすくした。試料は約700℃で結晶化し始めた。ガラス内部で成長した結晶は8面体のLi_2B_4O_7単結晶であった。結晶は約100μmのサイズまで8面体のまま成長し、その後、角の部分から異常成長が始まり、最終的にはファイバー状結晶に覆われた球晶となった。8面体単結晶は球晶の核となっており、核の大きさは用いたガラス試料の組成(X=B/Li+B比)により大きく変化していた。ガラス組成が成長した単結晶の組成(Li_2B_4O_7組成X=0.67)からずれる程、核の大きさは減少した。また、Bリッチ側ではLiリッチ側よりも急激な核のサイズの減少が見られた。これは成長界面近傍でのLi、B原子の拡散の大きさの違いによるものと考えられる。原子拡散速度のより大きなLi過剰組成では、界面での過飽和が解消されやすく、その結果大きな8面体核が成長したものと考えられる。 完全に対流を抑制した融液成長の実現は宇宙空間でも困難であり、この研究の結果は極限状態の貴重なシミュレーションと考えられる。
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