Ga原子とAs原子はほぼ同じ原子寸法を有するので、GaAs結晶にSiを添加すると、SiはGa原子位置及びAs原子位置いずれをも占有することが出来る。実験結果は高温で熱処理すると前者、低温で熱処理すると後者が多くなることを示している。両原子位置を占めるSi濃度がほぼ等しいような場合には、Si原子クラスターが形成される可能性がある。そのような場合、もしかしたら興味ある光学的性質が発現される可能性がある、という予想のもと、シリコンを添加した砒化ガリウムを熱処理してフォトルミネッセンスを測定している。特にSi原子クラスターが形成される高濃度添加の場合について調べた結果を報告する。 試料は水平ブリッジマン法で育成された、約0.013%(as-grown状態でSiが析出しているのでP結晶と呼ぶ)及び約0.002%(Siが析出していないのでNP結晶と呼ぶ)のSiを添加されたGaAs単結晶である。Siクラスターを形成するために最適砒素圧力下、各種の温度で試料を焼鈍した。然処理後、フォトルミネッセンスを測定した。その際、発光中心の幾何学的形状・分布に関する知見を得る為に、特にその偏光特性に注目した。 以下ではNP結晶を900℃で焼鈍した試料(NP-9)と、P結晶を500℃で焼鈍した試料(P-5)に関する結果を報告する。前者はクラスターを含まないが後者ではクラスターが形成されていると考えられる。いずれの試料も1080nm及び1240nm付近に発光ピークを持つ。1080nm線の偏光特性は、試料P-5とNP-9で全く異なる。一方、1240nm線は両者で同じ振る舞いを示す。この結果は、クラスターが1080nm線を引き起こすことを示している。
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