高速ガス流中蒸発法は、密封ガスを用いる従来のガス中蒸発法に比べて、サイズの揃った微細な粒子の作製に適していることをすでに報告した。本法の特長は、蒸発源からの対流を作らぬために、高速のガス流を強制的に蒸発源に吹きつけることにある。それによって、広い範囲にわたって蒸気領域のできることも重要な特長の一つである。このような条件下で蒸発最温度を制御し、かつ定常的な蒸発の維持を目的として、クヌーセン・セルを使用した装置を作製した。それを用いてArガス中でMnを蒸発し、次のような結果を得た。 (1)蒸発源温度1350℃の場合、Ar圧7〜15Torr、流速6〜12m/sの範囲で、蒸発源から1150mmまでの全領域で下地上に膜成長が認められた。その膜はα-Mn相を示した。 (2)蒸発源温度1450℃では350mm以降の全領域で微粒子が得られた。平均粒子径は約20nmで、725℃〜1095℃で安定な高温相であるβ-Mn相であった。本方法の特長である急冷効果が効いて、室温にクエンチされたものと考えられる。 (3)蒸発源温度が1500℃になると、クヌーセン・セルの口から"煙"の噴出が認められるようになった。生成粒子はαおよびβ-Mnの混合相から成り、サブミクロン級の粒子も多く含まれていた。これは、密封ガス中の蒸発実験と同様な結果を与えるものであった。 クヌーセン・セルを用いて一定温度の蒸発を維持した今回の実験によって、蒸気領域の広さを制御する方法の一つとしては、蒸発源温度を制御することが実用上から考えて容易な方法であることも分かった。
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