本研究では、沖縄トラフの伊平屋凹地と南奄西海丘において、「しんかい2000」の潜航調査で得られた沈殿池の鉱物組成・化学組成を求め、流体包有物の加熱冷乏却実験を行った。 伊平屋凹地クラムサイトの熱水系は大量の炭酸塩鉱物の沈殿で特徴付けられるが、その中でピラミッドチムニー周辺の「ひさし」状沈殿物について群しく検討したところ、 1.「ひさし」を構成鉱物する炭酸塩鉱物は、CaCO_3-MnCO_3(MnCO_316〜86mole%)の広い組成範囲を持つ。 2.硫化鉱物のうち磁硫鉄鉱は単斜晶系の組成を持ち、アラバンド鉱も産することから考えると、海嶺系の熱水鉱床や黒鉱鉱床よりもかなり環元的な熱水活動であることを示している。 伊平屋凹地産の方解石と南奄西海丘産の硬石膏・方解石中の流体包有物の加熱冷却実験を行ったところ、次のような結果となった。均質化温度:伊平屋方解石(186〜338゚C、平均282゚C)、南奄西硬石膏(231〜300゚C、平均261゚C)、同方解石(268〜305゚C、平均282゚C);塩濃度:泰平屋方解石(3.4〜5.7%、均平4.4%)、南奄西硬石膏(3.9〜4.3%、平均4.1%)、同方解石(3.2〜3.9%、平均3.5%)。これらの結果から、伊平屋凹地では過去の炭酸塩チムニーを形成したときの熱水は、現在湧出している熱水(最高温度220゚C)よりもかなり高温であったことと、塩濃度が海水(3.5%よりかなり高いことから、沸謄現象を示すような大規模な熱水系が発達していた可能性がある。また、南奄西海丘では、現在の熱水の温度や流体包有物の均質化温度が同水深での海水の沸点に近いことや、チムニー周辺に破砕性の沈殿物が見られることから、現在も時々爆発を繰り返すような活発な熱水系が発達していると推定される。
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