中層循環は数十年の時間スケールの気候変動や海洋中の物質の循環に重要な働きする。しかし、北太平洋中層水の生成機構についても現在まで明らかにされていない。この問題を明らかにするため、中層水生成のキイエリアと考えられている親潮域・混合水域の海況を、既存の資料を中心に調べた、別に量的には少なくとも、親潮域・混合水域で津軽暖水系水が冬季の冷却によりかなりの高密度になり得ることが示される。近年、高精度のCTDが各機関に配備されるようになり、この海域での観測資料は質・量ともに急速に増大しつつあるが、CTD記録に現れるジグザクした形状を微細構造の活動度と捉え、それがその海域での水塊混合・変質の活質の活発さを与えるものと考えられることから、その地理的分布から生成域の特定を試みており、暖水塊やフロント付近の海況が重要な要因となることを確かめつつある。また、岩手県水産試験場の定期観測線の過去20年に渡る資料から、三陸沿岸で冬季にどれだけ重い水が生じるかを調べた。その結果は、北太平洋中層水に対応する水系の水が、高塩分の津軽暖水流の冬季の冷却でほぼ毎年生成されていることが示された。またその生成は、冷却の最も激しい2月ではなく、高塩の津軽暖水の滞留する1月に行われることを明らかにした。これはこの密度の水亜寒地帯海域で冬季にも水面近くでは見出せないとする今までの常識とは反する結果である。量的に単独に北太平洋の中層水の起源となり得るかは今後の研究に待つ必要があるが、この海域に流入して来るオホーツク起源の低塩の中層水との混合により中層水を作るのでありば十分な生成量を生み出すことは十分考えられる。少なくとも、キイエリアである混合水域の北部の中層の海洋構造を決定する上において津軽暖流水起源の高密度水は無視することの出来ないものであることは示し得た。
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